テクストの地霊(ゲニウス・ロキ)に触れる

シュルレアリストのパリ・ガイド 作者:松本完治 エディション・イレーヌ Amazon アンドレ・ブルトンは、[…]パリの街路における偶然の出会い、いわゆる客観的偶然が起こり得る雰囲気のようなものを《偶発的なものの息づかい=Le vent de l'éventuel》と巧み…

夜をめぐる断想

夜間の彷徨は、世界がその力を弱め、遠ざかってゆく時にさまよい歩く性癖は、さらには夜間に実直に営まねばならぬような職業すら、猜疑を呼び起すものである。眼を開けたまま眠ることは、ひとつの異例であって、象徴的な意味では、共通の意識が認容しない底…

メモランダム

転生するモード—デジタル時代のファッション (叢書セミオトポス) 新曜社 Amazon 宮川淳子はファッション誌は十八世紀フランスにはじまると述べているが、日本で小袖雛形本が出版されるのは十七世紀のことだ。小袖雛形本を雑誌や定期刊行物といっていいかどう…

表象文化論学会第17回大会で「ままならない身体」パネルを実施します(7/9(日))

2023年7月8日(土)・9日(日)に開催される表象文化論学会第17回大会(東京大学駒場キャンパス)にて、「「ままならない身体」をめぐる思考と実践」と題したパネルを実施します(小澤は企画と当日の司会を務めます)。一部に来場者参加型のワークショップも…

エゴン・シーレ:拷問を受ける肉体

シーレとロダンの連関に最初に着目したのはウェルナー・ホフマンであろうが[…]はじめてムードンのロダンのアトリエを訪れたときの、ガラスのケースに収められていた人体の断片のかずかずが唐突に視界に飛び込んできたのは、強い衝撃だった。肉体の細分化、…

2022年度前半に刊行されたもの

だいぶアナクロニックになってしまったものもありますが、2022年前半に刊行された拙稿です。 クリティカル・ワード ファッションスタディーズ フィルムアート社 Amazon 蘆田裕史・藤嶋陽子・宮脇千絵編著『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ』…

東京芸術祭 2022シンポジウム「なぜ他者と空間を共有するのか? ~メディア、医療、パフォーマンスの現場から~」

表象文化論学会MLで東京芸術祭 2022シンポジウム「なぜ他者と空間を共有するのか? ~メディア、医療、パフォーマンスの現場から~」オンライン配信の存在を知り、さっそく視聴した。 www.youtube.com Cf. 東京芸術祭ウェブサイト上のシンポジウム紹介ページ…

第47回社会思想史学会フーリエ・セクションに行った

2022年10月16日(日)開催の社会思想史学会に赴き、フーリエ・セクションに参加。会場は専修大学生田キャンパス。地理的には神奈川県で、生田緑地の緑に囲まれたロケーション(すでに紅葉が始まっていた)。 大会案内:http://shst.jp/home/conference/ 大会…

ゲルハルト・リヒター展(東京国立近代美術館)

昨日は当日券完売済で入場できず、関連書籍だけ買ってとぼとぼと引き上げたリヒター展、やはり大きさやマティエールなどを確かめるためにも実物を見ておきたいと思い、再び竹橋に。結論から言うと、やはり実際の展示を見られて本当によかった。見逃した人は…

「空気の流れ」と都市計画

■Richard Etlin, « L’air dans l’urbanisme des Lumières », dans Dix-huitième Siècle, n°9, 1977 ; Le sain et le malsain, p. 123-134. doi : https://doi.org/10.3406/dhs.1977.1119 ■Michel Foucault, Les Machines à guérir : aux origines de l'hôpit…

シャルル・フーリエ覚書

■Bibliothèque de l'école des chartes, Vol. 163, No. 1, janvier-juin 2005.ENTRE NOSTALGIE ET UTOPIE: RÉALITÉS ARCHITECTURALES ET ARTISTIQUES AUX XIXe ET XXe SIÈCLESPersée : https://www.persee.fr/issue/bec_0373-6237_2005_num_163_1 Marion Loi…

メモランダム 1988年9月刊行の『WAVE』(特集:サイバーシティ東京)を読んでいて、「デッドテック」という言葉を知る。おそらく現在はもう生き残っていないヴォキャブラリーではないか。先端的なテクノロジーのイメージと死や病や崩落とが結びつく表現が、…

【メモ】同人誌『同時代』を刊行している「黒の会」の会報、「黒の会手帖」第14号(2021年11月)に寄稿したエッセイ「文学散歩というテクスト」から抜粋。 「文学散歩」それじたいが、テクストの創造的な解釈行為であり、一種の翻案や二次創作でもある。まず…

【メモ】同人誌『同時代』を刊行している「黒の会」の会報、「黒の会手帖」第14号(2021年11月)に寄稿したエッセイ「文学散歩というテクスト」から抜粋。 作品に基づいて、ある土地を徹底して歩き回ることは、新たなテクストをも生み出す。たとえば川本三郎…

【メモ】絵画とヴェール:日本絵画のなかの「ヴェール的なもの」 喜多川歌麿や葛飾北斎の浮世絵には、しばしば「ヴェール」的なもの=あちらとこちらを遮断しつつ透かし見させる表面が登場する、という感触がありつつ、それ以上は掘り下げられていなかったの…

【メモ】 享楽社会論: 現代ラカン派の展開 作者:松本 卓也 人文書院 Amazon 松本卓也『享楽社会論』から。 ラカン派の精神分析家、ジャック=アラン・ミレールは、「普通精神病」という新たな用語を提唱するに際して、興味深いことを言っている。前提としてミ…

都市というテクストと作品というコンテクストの相互作用

ウェブ検索でたまたま見つけた次の論文、「都市というテクストのコンテクストとしての作品」という視点が提示されていて、示唆を受ける。 渡辺裕「「文学散歩」と都市の記憶 : 本郷・無縁坂をめぐる言説史研究」、『美学藝術学研究』第35号、東京大学大学院…

啓蒙思想家たちと「散歩」 散歩をするディドロ

一年前の文章の続き。 今書いているテクストに関係あると思ったらあまり関係がなくて、書架に戻そうとした本(ラクー=ラバルト『近代人の模倣』)に、ふと「啓蒙思想家たちと散歩」というテーマに関連する一節をみつける。ディドロ(による執筆とされる)『…

荷風と東京(上) 『断腸亭日常』私註 (岩波現代文庫) 作者:川本 三郎 岩波書店 Amazon 荷風と東京(下) 『断腸亭日常』私註 (岩波現代文庫) 作者:川本 三郎 岩波書店 Amazon 川本三郎『荷風と東京』文庫版上下2巻が届いた。荷風には「江戸的なものに固執し、モ…

南大沢でワクチン接種の後、そのまま京王線で駒場博物館の「宇佐美圭司:よみがえる画家」展へ。 逸失(廃棄処分)でニュースになった本郷学生食堂の例の絵画だけでなく、しばしば目にする人文書や文学作品の装幀も、そういえば氏の手掛けたものであったこと…

Bunkamuraザ・ミュージアムの「マン・レイと女性たち」展へ。 著名な写真(《ガラスの涙》、《アングルのヴァイオリン》、ココ・シャネルのポートレイト……)やレディ・メイド作品(メトロノームに眼の写真を貼り付けた《破壊されるべきオブジェ》、アイロン…

朝日新聞夕刊のリレー連載「にじいろの議」に寄稿いたしました。「空想散歩の歴史をたどる:居室から広がる「体験」」と題して、コロナ禍で一気に普及したヴァーチュアルヴィジットから、空想旅行や空想美術館の系譜を辿ります。https://digital.asahi.com/a…

高梨豊の写真集『地名論 genius loci, tokyo』(毎日コミュニケーションズ、2000年)を購入した。 一九九四年からはじめたこのシリーズは、「地名」をたよりに始められた。町の名であり、川の名であり、橋の名であり、坂の名前である。本郷ならば「森川町」…

『ユリイカ ココ・シャネル特集』2021年7月号に、論考「フィルムのなかのシャネル」を寄稿しました。『去年マリエンバートで』を中心に、ジャン・ルノワール『ゲームの規則』、ルイ・マル『恋人たち』、『ボッカチオ‘70』収録のヴィスコンティ作品などに触れ…

国立新美術館の「ファッション イン ジャパン 1945-2020」展に行ってきた。戦前のモガの洋装、戦中の国民服、戦後の洋裁ブームと洋裁学校から、個々のデザイナー、ユースカルチャー、雑誌、広告、改造制服、DCブランド、アイドルや音楽とファッションの関係…

去年マリエンバートで 4Kデジタル修復版 [Blu-ray] デルフィーヌ・セイリグ Amazon 『去年マリエンバートで』の映画の構造は、男Xが語る邸館の室内や庭園の構造と呼応しているように思われる。 「そしてまた、私は歩いたのです。ただひとり、あの同じ廊下づ…

【メモ】フロイト「文化の中の居心地悪さ」新訳 心の生活においては、一度形成されたものは何ひとつ滅びず、すべてが何らかのかたちで保存されており、たとえばその時期にまで届く退行のような機会に恵まれると、ふたたびおもてに現れてくることがある……。こ…

最近の漂着物 ・拙論「絵のなかを歩くディドロ:「サロン評」の風景画記述と「歩行」のテーマ系」がリポジトリ公開されました。 Permalink : http://doi.org/10.18909/00001974 ※PDF23ページ脚註3の『古きフランスのピトレスクでロマンティックな旅』につい…

「国際シンポジウム「AIと人文科学:国境を越えて・分野を越えて」第1日目を聴く。こちらで共通テーマを見つけるとすれば、「デジタルツールによる定量分析と世界美術史」といったところだろうか。コーパスの量的な分析によって、例えば「第二次大戦後のアメ…

『建築ジャーナル』2021年2月号「特集:新・廃墟論」の座談会に参加しております。廃墟探検家の栗原亨氏、旧共産圏モニュメント写真でも知られる星野藍氏、若手建築家の三井嶺氏という、豪華かつなかなか無い顔ぶれとご一緒させていただきました。刺激的で楽…