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宮川淳子はファッション誌は十八世紀フランスにはじまると述べているが、日本で小袖雛形本が出版されるのは十七世紀のことだ。小袖雛形本を雑誌や定期刊行物といっていいかどうかは定かではないが、最新モードのカタログ本ではあるので、少なくともファッション・メディアと呼ぶことはできるだろう。江戸時代の日本には欧米に先駆けて、貴族だけでなく町人衆を巻き込んだファッション・システムがあり、そこに印刷メディアが果たした役割は看過できない。そう考えると、日本のファッション・メディア史もまた新たな視点から編成することができそうだ。

(成美弘至「新しいファッション・メディア研究に向けて」、日本記号学会編『叢書セミオトポス14 転生するモード:デジタルメディア時代のファッション』新曜社、2019年、60ページ。)

※同ページ脚注7によれば、「小袖雛形本」とは江戸時代に出版された着物の模様カタログで、呉服屋が顧客に見せ注文を取るために出版したもの。17世紀から19世紀にかけて、120種以上出版されたという。

 

いわゆる「ファッション論」の文脈では、前近代の日本の出版文化はなかなか俎上にのぼりづらいのではないだろうか?(おそらく、研究者の「生息範囲」が完全に異なってしまっているのでは?) そういう観点からも、この指摘は面白い。ただし、江戸時代の文化研究という領域では、「出版メディア研究」は一時期かなり盛んだっただろうから、視点を変えると「今さらそれに驚くの?」という感じなのかもしれない。

それはともかく、せっかく服飾系の学科も擁する大学の日本文学文化学科に所属しているのだから、西欧18世紀以降のファッションプレートや初期ファッション雑誌と江戸時代の小袖雛形本を比較しつつ展示する、みたいな企画を、学内ミュージアムか図書館で開催しても面白いんじゃないかと思っている。

小袖雛形本も含めた江戸時代のファッション(服飾の大衆的な流行)とメディアについて、ひとまず入門になりそうな書籍を見つけたので、さっそく注文。

 

個人ブログであるが、上掲書籍も含め非常に詳しい記述のなされているものを見つけたので、メモとしてリンクしておく(内容についてはまだ吟味していない)。

「着物ファッションと買い物のアルバム日記 part2」より
「ファッションは西欧社会で生まれた概念?江戸時代の小袖が西洋に先駆けてモードを発展させていたのは本当か?(前編)」:http://arimatunarumi.blog.fc2.com/blog-entry-1049.html
「ファッションは西洋社会で生まれた概念?江戸時代の小袖が西洋に先駆けてモードを作っていたのは本当か?(中編)」:http://arimatunarumi.blog.fc2.com/blog-entry-1050.html