テクストの地霊(ゲニウス・ロキ)に触れる

シュルレアリストのパリ・ガイド

シュルレアリストのパリ・ガイド

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アンドレ・ブルトンは、[…]パリの街路における偶然の出会い、いわゆる客観的偶然が起こり得る雰囲気のようなものを《偶発的なものの息づかい=Le vent de l'éventuel》と巧みに表現している。[…]歩いているその街路、そこから見える建物や光景、その他諸々のものが、過去の無数の歴史的事象と絡み合い、そこに宿る《地霊》なるものが、集団的無意識の記憶を不意に呼び覚まして、見えない気流に導かれるかのように、未知なるものに遭遇させる、そういった仕掛けがパリに宿っていると彼らは感じていたに相違ない。

(上掲書、10ページ。)

パリはその象徴性があまりに特殊な都市なので、安易に他の土地に敷衍することはできないかもしれないが、「地霊(ゲニウス・ロキ)」という概念は、場所の記憶、さらには「テクストの中に埋め込まれた場所の記憶」を考えるうえで、やはり一つの支柱となるものだと思う。私が例えば「文学散歩」という企画で捉えてみたかったのも、こういう「地霊との、向こうから偶然にやってくるような、突然憑依されるかのような出会い」の機会である。

 

つまり本書は、こうしたパリを、かつてシュルレアリストたちが歩いたように、紙面で跡をたどることによって少しでも追体験し、幻視のパリ散歩に読者を誘おうというわけである。

(同上)

この書は、テクスト内に体現された都市の経験を、ただ解説するのではなくて、元のテクストとは異なる書籍を読む経験において、再現・追体験を可能にしようという試みと理解した。

 

土地の精霊としてのゲニウス・ロキに加えて、「テクストという空間の中に埋め込まれたゲニウス・ロキ」のようなものも構想しうるのではないだろうか、とふと考えた。