夜の遊歩

シャガールの描く浮遊的な情景に惹かれる。夜、あるいはいつともつかない不分明の時間、人間の眼をもつ動物、深閑とした色彩どうしの混じり合い、重力を免れて空に浮くこいびとたち。地面から、魯鈍な現実法則から解放されていることの、虚ろな自由。

散策(promenade)としてのディドロの絵画描写 『サロン評』でのディドロによる絵画の記述は、もちろんエクフラシスの伝統に則ったものである。と同時に、とりわけその対象が風景画である場合には、それは「テクストによる空想の散策」ともなる。例えばクロ…

月下の一群 (講談社文芸文庫) 作者:堀口 大學 発売日: 1996/02/09 メディア: 文庫 彼は机の前に坐つてゐた、彼の夢想は甘やかにランプの光の輪の中に集まつてゐた、彼は窓に来て突き当る脆い吹雪の突貫をきいてゐた (シャルル・ヴィルドラック「訪問」堀口…

拙論がリポジトリ公開されました。 書誌情報:小澤京子「モダニズム都市と夜の幻想:1920−30年代のイメージとテクストから」、『和洋女子大学紀要』 第58号、37-48ページ。Permalink : http://doi.org/10.18909/00001557 『魔術/美術』(2012年)に寄稿した…

10+1 web site(http://10plus1.jp )の「特集ブック・レビュー2018」に、「シークエンシャルな建築経験と(しての)テクスト――鈴木了二『ユートピアへのシークエンス』ほか」を寄稿いたしました。 http://10plus1.jp/monthly/2018/01/issue-08.php 漫ろ歩き…

永井荷風の東京逍遥

荷風は、大正に入りますます急速に失われゆくようになった「江戸的なもの」の面影と残存を、現在の東京の無目的な散策を通して見出そうとする。そして荷風の散策は、彼が18世紀初頭のパリの新聞記者アンドレエ・アレエの例を出して言うような、主体的・積極…

萩原朔太郎『青猫』に差し挟まれた、何処ともつかない、しかし明白に西洋風な風景画の由来について。(2017年7月1-2日開催の表象文化論学会第12回大会での熊谷謙介氏の発表「「青猫・以後」と郷愁――「のすたるぢや」の歴史性」(パネル「萩原朔太郎の表象空…

関東大震災後の東京における知覚の変容、小村雪岱の場合。「余韻」としての在りし日の面影。 こうした知覚のあり方[=雪岱の文章に表れた、二つの異なる知覚形態の重ね合わせ(パラタクシス)]は記憶の記銘と想起に深く関わっている。二十歳過ぎまで暮らし…

サラサーテの盤―内田百けん集成〈4〉 (ちくま文庫)作者: 内田百けん出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2003/01/01メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 23回この商品を含むブログ (41件) を見るとある寄稿論文で、博士課程1年目の頃に考えていた「近代日本の文…

「失われた時を求めて」風景経験のコラージュ性

失われた時を求めて 1 抄訳版 (集英社文庫)作者: マルセル・プルースト,鈴木道彦出版社/メーカー: 集英社発売日: 2002/12/13メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 24回この商品を含むブログ (42件) を見る けれども線路の方向が変わったので、汽車は弧を描き、…

歴史の場としての都市と、その受肉化夜のガスパール―レンブラント、カロー風の幻想曲 (岩波文庫)作者: アロイジウスベルトラン,及川茂出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1991/11/18メディア: 文庫 クリック: 8回この商品を含むブログ (8件) を見る まもなく…

活動写真

縁日の見世ものの臭き瓦斯にも面うつし、 怪しげの幕のひまより活動写真の色は透かせど、 かくもまた廉白粉の、人込のなかもありけど、 さはいへど、わかき身のすべもなさ、涙ながるる。鄙びたる鋭き呼子そをきけば涙ながるる。 いそがしき活動写真煤びたる…

原点回帰

目前に迫った修論提出に忙殺されている。そんな中で、遠い昔にフランスに憧れる切っ掛けとなった文章を憶い出す。 キスした人 お月様が夜おそくパリーの場末を歩いていると うしろから顔をねじ向けて無理にキスした者があった アッと声がして 向うの街かどを…

空中紳士

空中紳士―合作探偵小説 (春陽文庫)作者: 耽綺社同人出版社/メーカー: 春陽堂書店発売日: 1994/07メディア: 文庫 クリック: 5回この商品を含むブログ (2件) を見る耽綺社は5人の探偵小説作家による同人。この『空中紳士』は、解説によれば実質江戸川乱歩の筆…

砂金 (愛蔵版詩集シリーズ)作者: 西條八十出版社/メーカー: 日本図書センター発売日: 2004/03/25メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 12回この商品を含むブログ (12件) を見る「同期の桜」といった軍歌から「青い山脈」などの歌謡曲まで、やたらと守備範囲…

いなか、のじけん

一昨日、ふとした切っ掛けで知って、寝食を忘れて読み耽ってしまったサイト。 無限回廊 このサイト名は有名サイトとして見聞きしたことがあるので、ご存知の方も多いかもしれない。特に「津山三十人殺し事件」と「狭山事件」に没頭してしまった。前者は、溝…

桜の木

ふとしたことで「日本における桜のシンボリズム」について調べていたら、面白いテーマをふたつ見つける。 ひとつは、日本の近世文化の中で、「桜の木」が此岸と彼岸、現実世界と異界との閾になっているパターンが多いこと。桜の木を墓標にする、枝垂れ桜の枝…

詩の引用の続き。大手拓次から。 「水仙のにほひ」 古い香炉の底にたまつてゐる いろいろの人の、手づからにくゆらした香のくづれの しんねりと死にさそふ、やはらかいおそろしいそのにほひ・・・・・・・・・・・・めらめらと眼の前に 形をまねる黄水仙のか…

カテゴリの分類をいい加減に変えたいのだけれど、日記と連動させて一斉に変更することができないようなので、少し困っている。 カテゴリ名とはあまり連関しないけれど、ちょっと訳あって詩編からの引用をいくつか。 「地面の底の病気の顔」地面の底に顔があ…

夜更けの遊歩

「危険な散歩」 萩原朔太郎春になって、 おれは新しい靴のうらにごむをつけた、 どんな粗製の歩道をあるいても、 あのいやらしい音がしないやうに、 それにおれはどつさり壊れものをかかへこんでる、 それがなによりけんのんだ。 さあ、そろそろ歩きはじめた…

松山巌『まぼろしのインテリア』を読了。日本の住宅(とりわけその内部構造)とそれを取り巻く認識枠組みとの相互関係、時代ごとの特異性や変遷を、明治維新からオイルショックに至るまで辿った書。公的機関が主導する形で建設されたアパートの構造や間取り…