空中紳士

空中紳士―合作探偵小説 (春陽文庫)

空中紳士―合作探偵小説 (春陽文庫)

耽綺社は5人の探偵小説作家による同人。この『空中紳士』は、解説によれば実質江戸川乱歩の筆によるものとのこと。サーカス、少女歌劇、円筒形のアトリエ、戸棚に並ぶ博多人形、場末の阿片窟、謎の洋館、装飾を凝らした貴族の館など、この時期の怪奇小説らしいモティーフが勢揃いしている。中でも面白いのが、響晰という謎の男が持っている奇妙なオペラグラス。

あのオペラグラスね、あれは普通のオペラグラスではなくて、正面を向けていて横のほうが見える仕掛けになっているペリスコープ式の眼鏡なんです。[…]正面を向いていながら横を見つめているんです。あの人自身の感じがそんなふうなのよ。恐ろしい人ですわ。
(22ページ)

このペリスコープとやらは、「眼鏡屋が俗に側面鏡と呼んでいる品」で、「ドイツ製のお化け眼鏡」であるらしい。wikipediaでは潜望鏡と同義とされている。望遠鏡の一種のようだが、『空中紳士』では「見ていることを見られることなく見る」ための装置として登場する。それは、神出鬼没の謎の人物でありながら、本人は事件の全てをお見通し、「雲隠れ」しつつも天上から万事を眺め下ろしているという、響晰その人の存在とも通じている。


パリ、クリニャンクールの蚤の市にあった、古いカメラと写真を売る店。この棚には拳に隠れるくらいのミニチュアカメラが並んでいた。ステレオスコープも二眼レフもあったが、ペリスコープの類はなかったはず。