松山巌まぼろしのインテリア』を読了。日本の住宅(とりわけその内部構造)とそれを取り巻く認識枠組みとの相互関係、時代ごとの特異性や変遷を、明治維新からオイルショックに至るまで辿った書。公的機関が主導する形で建設されたアパートの構造や間取りと、家族の構造(に対する理想や規範)の変遷の連関を探った「諦める人たち」の章を始め、なかなか面白い。僕達の世代にとっては「古き良き時代」へのノスタルジーの対象でしかない同潤会アパートメントが、建造当時は「強制されたもの」「異物」としての性質を有していたことも、実証的資料を伴って提示されている。
松山氏の論考では、『乱歩と東京』も――乱歩作品に表出するモチーフと、当時の社会・都市の全体的な統計データを直ちに連関させてしまう手つきは、現在から見ると若干短絡的に映るものの――非常に面白かった。
氏の、都市を歩き回る中で、そこに沈殿する歴史や記憶を呼び覚ます身振りには、興味と共感を覚える。