砂金 (愛蔵版詩集シリーズ)

砂金 (愛蔵版詩集シリーズ)

「同期の桜」といった軍歌から「青い山脈」などの歌謡曲まで、やたらと守備範囲の広い西條八十の初期の詩集。「歌を忘れたカナリヤ」や、寺山修司の死因にもなったと噂される伝説の詩「トミノの地獄」が収録されている。

下りて来い、下りて来い、
昨日も今日も
木犀の林の中に
吊つてゐる
黄金の梯子
瑪瑙の梯子

[…]

月は埋み
青空は凍てついてゐる、
木犀の黄ろい花が朽ちて
瑪瑙の段に縋るときも。
「梯子」

天空への通路を思わせるモティーフは、この詩集に収められた他の詩篇にも頻出する。そこに表れているのは、例えばキリスト教的な聖性への信仰などではなくて、むしろ辿り着くことのできない場所への憧憬と静かな挫折感、諦念に近いように思う。
不透明なガラスや玉のイメージも面白い。澄みきった透明ではなくて、視界を遮る硬質な物質。盲者が出てくる詩が多いのも、「遮られた視覚」というテマティスムなのか。月光、洋燈の明かり、蝋人形、象牙、燻銀、瑪瑙など、冷たい鉱物的な詩情の世界である。

ちなみに、「トミノの地獄を全文音読すると死ぬ」という都市伝説を最初に(書籍の形で)紹介したのは、四方田犬彦氏のエッセー『心は転がる石のように』だそう。