活動写真

縁日の見世ものの臭き瓦斯にも面うつし、
怪しげの幕のひまより活動写真の色は透かせど、
かくもまた廉白粉の、人込のなかもありけど、
さはいへど、わかき身のすべもなさ、涙ながるる。

鄙びたる鋭き呼子そをきけば涙ながるる。
いそがしき活動写真煤びたる布に映すと、
かりそめの場末の小屋に瓦斯の火の消え落つるとき、
鄙びたる鋭き呼子そをきけば涙ながるる。

あはれ、あはれ、
色青き幻燈を見てありしとき、
なになればたづきなく、かのごとも涙ながれし
いざやわれ、倶楽部にゆき、友をたづね、
紅のトマト切り、ウヰスキイの酒や呼ばむ、
ほこりあるわかき日のために。
北原白秋『叙情小曲集 おもひで』より「断章」35-37)