記憶

死者の固有名について 人は死において、ひとりひとりその名を呼ばれなければならないものなのだ。死においてただ数であるとき、それは絶望そのものである。 (石原吉郎『望郷と海』ちくま学芸文庫、Kindle 版、2002年、No. 38。) いわば一個の符号にすぎな…

近代国家の首都[ルビ:キャピタル]の条件を正確に把握していないと〈ミュゼアム〉の意味が浮かんでこない。パリ、北京、東京を比較して、ここに故宮、中央広場、国家的慰霊施設・国会、それに神殿が加わる。故宮が〈ミュゼアム〉になる。ルーブル、北京の…

図書館という場所

図書館は共同体にとって、焦点となる場所、聖なる場所です。なぜ聖なる場所かといえば、それは図書館がだれでも入れる、あらゆる人に開かれている場所だからです。図書館はみんなの場所です。 (アーシュラ・K. ル=グウィン「わたしの愛した図書館」(1997年…

昨年度・今年度と、新入生向け宿泊セミナーの企画担当として、講義共通テーマの設定に関わった。事前指導用に作成し学生に配布した「講義テーマの趣旨」は、私自身の関心を再確認するものでもあるので、メモランダムとしてこちらに。 2017年度日本文学文化セ…

破壊者としての時/クロノス

出典:パノフスキー『イコノロジー研究』上巻、ちくま学芸文庫。イコノロジー研究〈上〉 (ちくま学芸文庫)作者: エルヴィンパノフスキー,Erwin Panofsky,浅野徹,塚田孝雄,福部信敏,阿天坊耀,永沢峻出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2002/11/01メディア: 文…

想起のかたち―記憶アートの歴史意識作者: 香川檀出版社/メーカー: 水声社発売日: 2012/11メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (4件) を見る本書で扱われている「場所と記憶」や「痕跡と過去の想起」は、以前から関心を寄せていたテーマ。特…

記憶劇場/図書館/ミュージアム(講義のためのメモ)

アビ・ヴァールブルクの文化科学図書館(ロンドン大学ウォーバーグ研究所の母体) 「文庫の中にヴァールブルクは巣網の中の蜘蛛のように座っていた」(カール・ゲオルク・ハイゼ) ・「良き隣人の法則」 ・閲覧室兼ホールを楕円形にする:両極性、ケプラーに…

建築の保存・修復・復元が孕む諸問題

『建築雑誌』2010年1月号(特集:検証・三菱一號館再現) http://www.xknowledge.co.jp/book/detail/85551001 前半に収められた座談会と鼎談では、三菱一号館の「再現」が孕む問題(と可能性)が、多様な視点から明らかにされる。後半は、建築の「再現」を取…

三菱一号館も含む丸の内地区オフィスビルの「保存」や「復元」は、当該地区の「再開発」計画の一環であるらしい。再開発のための都市プロジェクト(=未来への企図)に、「古き良き時代」の空間や様式・意匠が援用されるという捩じれ。展覧会カタログ『一丁…

(他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙は、真ん中の大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、おそらく無限数の六角形の回廊で成り立っている。[…]ホールに一枚の鏡がかかっていて、ものの姿を忠実に複写している。この鏡を見て人…

夜にはキャンパス内のホールで、クロード・ランズマンのフィルム上映と、ご本人を招聘してのディスカッションがあった。上映されたのは、「Sobibor, 14 octobre 1943, 16 heures(ソビボル、1943年10月14日午後4時)」。「絶滅収容所」と呼ばれたソビボルか…

天才的な時代

シュルツ全小説 (平凡社ライブラリー)作者: ブルーノシュルツ,Bruno Schulz,工藤幸雄出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2005/11/10メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 50回この商品を含むブログ (39件) を見る だが、時間のなかに己の場を持たない出来事、遅す…

シンポジウムのご案内

日本ドイツ学会第24回総会 2008年6月21日(土)筑波大学 総合研究棟 A 参加費 500円 (共催 筑波大学人文社会科学研究科) シンポジウム 「記憶と想起の空間−−ドイツにおける歴史意識のアクチュアリティ」 13時45分−17時45分 総合研究棟 …

l'archivistique(アーカイヴス学、とでも訳せばいいのだろうか。archive(s)の語は、英語でも仏語でも通常複数形で用いられる。)の授業で、今度発表しなくてはならず、四苦八苦しているところ。 自分の専門分野に関する「アーカイヴス」の現状や性質・特徴…

複製美術館

大塚国際美術館 絵タイルによって、西洋美術史上の「名品」を原寸大で再現しようという試み。色彩などはかなりの再現性を誇るらしいが、写真でもタイルの目地がはっきりと見えるほどで、そのグリッドが強烈に「これは複製である」というメッセージを送ってく…

victorian mourning jewellery

写真左:ロンドン万国博(1851年)を記念した、象牙のブローチ。小さなフォトスタンドになっていて、水晶宮のモノクロ写真が収められている。周囲には勿忘草のレリーフ。微かに水色の絵の具が残っているので、当初は彩色されていたのだろう。 写真中・右:遺…

記憶・歴史・忘却〈上〉作者: ポールリクール,Paul Recoeur,久米博出版社/メーカー: 新曜社発売日: 2004/08/20メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (16件) を見る歴史を逆なでに読む作者: カルロ・ギンズブルグ,上村忠男出版社/メーカー: み…

(映画『ショアー』の)映像は過去の情景を再現していないし、過去の存在を表象し、記憶させようとしているのではない。そのような表象や記憶の行為は知らず知らずのうちに過去の偽造となるからである。 (内田隆三『国土論』51ページ)

ヴァレリーの「人と貝殻」絡みで貝殻の博物絵を探していて見つけたサイト。 カナダのMcGill大学で美術史を専攻するGilles Thibault氏の、博論用メモらしい。 Cabinet de curiosites 「驚異の陳列室」や博物学に関する図版が豊富。内容は概括的・通史的。

展覧会カタログ:La Fabbrica del pensiero: Dall'arte della memoria alle neuroscienze,Electa, 1989. 記憶術について、古代から現代までを総括した展覧会のカタログ。 amazon.ukでの検索結果→ NACSISや美術図書館横断検索には、所蔵情報なし。

「人間の脳髄は、天然の巨大なパランプセストでないとしたら、一体何であろうか。私の脳髄は一つのパランプセストだし、読者諸君のもまたそうである。観念や映像や感情の限りない層が、諸君の脳髄の上に、次々に、光のようにそっとつもった。そして、その一…

sepolcrale:墓の pietra sepolcrale墓石、iscrizione sepolcrale墓碑銘、poesia sepolcrale墓畔の詩(グレイヴヤード・スクールの影響で19世紀に流行)。

以前にクリスチャン・ボルタンスキーのことを、映画『アメリ』に出てくる、捨てられたインスタント肖像写真を集めている男の子を連想させるという風に書いたけれど、例の映画には別のモデルがいたらしい。ディック・ジュエル(Dick Jewell)という、主として…