以前にクリスチャン・ボルタンスキーのことを、映画『アメリ』に出てくる、捨てられたインスタント肖像写真を集めている男の子を連想させるという風に書いたけれど、例の映画には別のモデルがいたらしい。ディック・ジュエル(Dick Jewell)という、主として70〜80年代に活躍したアーティストで、無名の人々のポートレートを集めた作品で有名だとか。去年の年末には、ヒステリックグラマーの渋谷本店でエキシビションがあったらしい。(行きそびれた。)ジュエルの作品集もヒスから出ているらしいが、1万円もするので購入をためらう。
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ただ、「写真」というメディアや「顔」というテーマの取り扱いという点では、「死者の写真」を出してくるボルタンスキーの方がうわ手のように思う。数年前に東京都現代美術館の常設展で見かけた、小さなポートレートの貼られた錆びた缶を並べたインスタレーション――『死んだスイス人の資料』というタイトルだった――が、何故か強烈に記憶に残っていたのだが、この作品もボルタンスキーのものだと最近知った。「痕跡」と「不在」、それにも関わらず喚起されてしまう「(誰かの)身体性」という点では、ヤン・ファーブルの甲虫甲冑とも通底するものがあるように思う。