複製美術館

大塚国際美術館
絵タイルによって、西洋美術史上の「名品」を原寸大で再現しようという試み。色彩などはかなりの再現性を誇るらしいが、写真でもタイルの目地がはっきりと見えるほどで、そのグリッドが強烈に「これは複製である」というメッセージを送ってくる。
開館10周年を迎える今年には、ミケランジェロによるシスティーナ礼拝堂を模倣したホールが完成したとのことで、地中海学会(実態はほとんどイタリア美術史学会)ともコラボレートしていた。学会ニューズレターから、この美術館の常務理事である田中秋筰(サク:たけかんむりに作)氏の挨拶文を抜粋。

大塚国際美術館は、世界初の陶板による西洋名画の美術館として、1998年に開館しました。世界25カ国190余の美術館や聖堂などから許可を得て収集された、古代から現代に至る壁画や絵画1,000余点は、西洋美術史のなかの名品をほぼ網羅したものと言えます。大塚グループの一員である大塚オーミ陶業株式会社の陶板製作技術が、これらの名画を原寸大で完璧に再現しました。オリジナル作品が歳月による劣化を免れないのに対して、陶板によって甦る作品は、その時点から変化を被らないのが特色です。
当館は今年3月、10周年記念事業として、環境展示の一つであるシスティーナ・ホールにおいて、ミケランジェロ天井画を完全再現いたしました。[…]徳島県鳴門に居ながらにして、ヴァティカン・システィーナ礼拝堂の迫力や臨場感を味わっていただけます

キッチュと呼んでもよい空間だと思うのだが、なぜか美術史関係者が揃って好意的な対応をしているのが謎。
古典的な版画メディアを皮切りに、写真やスライド、再現率の高さを誇る展覧会カタログや画集、近年急速に整備されている作品データベース、インターネット上でのヴァーチャル・ミュージアムなど、複製による模擬的アーカイヴという発想自体は決して新奇なものではない。ただ、この「タイルによる泰西名画美術館」のような、ディズニーシーに作られた虚構のヴェネツィアとほぼ同種のものに思われるコピー空間が、西洋美術史の専門家たちとの共犯関係の下に「美術館」を名乗ってしまうという事態は、滑稽であると同時に重大な問題を孕んでいるのではないだろうか。