アナクロニズム日記その1

「かたちは、うつる」展(国立西洋美術館
夏になると西洋美術館で開催される、版画や素描をテーマとした展覧会。その中でも今回の展示は、テーマ設定の仕方がとても新鮮で面白い。版画は原版を紙に「転写」することでイメージを得る技法だが、ここでの「うつる」は、「映る」「写る」「移る」、さらには語源を同じくする「うつ(空/虚)」までも内包した意味合いをもつ。西洋美術館所収の版画作品という、限られた、なおかつ広汎な(ともすれば散漫な)リソースの中から、一つの大きなテーマとその下位に位置するサブテーマを見出し、展示を「分節」していくやり方が非常に巧みであった。

序:うつろ――憂鬱・思惟・夢
第1部:現出するイメージ
 うつしの誘惑Ⅰ――顔・投影・転写
 うつしの誘惑Ⅱ――横顔・影・他者
 うつしだす顔――肖像と性格
 うつる世界Ⅰ――原初の景色
 うつる世界Ⅱ――視線と光景
 うつせみⅠ――虚と実のあいだの身体
 うつせみⅡ――身体の内と外
第2部:回帰するイメージ
 落ちる肉体
 受苦の肢体
 暴力の身振り
 人間≒動物の情念
 踊る身体
 輪舞

展覧会を堪能した後には、アビ・ヴァールブルクにおける「うつる」イメージについての講演を聴く。取り上げられたのは、図像アトラス「ムネモシュネ」の47番パネル。庇護者の下に歩く子供(神殿を訪問する幼子キリスト、ラファエルに守られるトビアス)と斬首(ユディット)という、一見対照的なテーマの図像を取り集めつつも、そこでは「衣を翻して歩むニンファ」という定型的身振りが貫かれている。数年前に大学院で参加したゼミで、私たちのワーキンググループが扱ったパネルということもあり、懐かしかった。右下に置かれた、パネルの中ではひとつだけ他の画像との関連性が薄いと思われる図像が、実は次のパネルへと繋ぐ蝶番の役割をしているという指摘が面白かった。今自分の考えている、「書物の中に置かれたイメージ」というテーマとも関わっているように思う。
講演者の方が、関心領域が近いのではないかとご紹介してくださった、今回の企画の担当研究員の方は、なんと私が4年前に書いた論文を読んでくださっていた。自分の思考をテクストにして公けにする作業を続けていると、ときに孤独感や無力感に襲われることもあるけれど、こうやって報われることもあるのだと知る。