文字の図像性

美術論集―アルチンボルドからポップ・アートまで

美術論集―アルチンボルドからポップ・アートまで


capital(大文字/柱頭)としての、Type(活字/類型)としての、そしてピラネージ(イニシャルP)の自己表象としてのP。

                  
情念的な身振りとしての、たなびく髪の毛や衣裳の襞としての、フィギューラ・セルペンティナータとしての文字。バルトは「活字としての女」について論じている。
エルテの文字絵はこちらのサイトに網羅されている:http://www.erte.com/alpha.html


建築空間としてのアルファベット「R」。下部がマリアの座する室内空間、上部の囲繞空間が神のいる聖なる空間となり、大天使ガブリエルはイニシャルよりやや前景に迫り出しつつ「告知」を行う。
フラ・アンジェリコ《受胎告知》1430年頃、サン・マルコ美術館所蔵の祈祷書より。


同じくフラ・アンジェリコによる祈祷書の飾り文字S。ここでアルファベットを形作っているのは二匹の魚(双魚宮)だが、Sの下半分はドミニコ会修道士のいる空間、上半分はマリアの光背が輝く空間となっている。


グランヴィルの『Les fleurs animées』では文字が指示内容そのもの(=花)になっている。


個人的に撮り溜めたABCDaireはこちら:http://f.hatena.ne.jp/rodano/


イメージが文字を形作る、ないしは文字とイメージが融合するというケースとは別に、「図像の中に文字が陥入する」場合もある。

百科全書の挿図(上掲図)では、メタレベルから説明を加えるための記号(数字、アルファベット)が、イメージ(図版という意味で)の次元に侵入してしまっている。ピラネージによるいくつかの図版や、コメニウスの『世界図絵』挿図などもこの系譜である。図版内では透視図法によって三次元空間のイリュージョンが演出されているが、書き加えられた記号は二次元のレベルにある。