羊皮紙に尖筆で記すこと/消すこと

動物の皮膚のような物質の表面に徴をつけるときの、野蛮とは言わぬまでも激しい行為について、私たちは心に留めておくべきである。人は先のとがった器具を用いて何らかの方法で動物の皮膚に穴を開け、凸凹にし、「傷つけ」なければならない。書き込んだものを消す場合にはその表面はさらに一層凸凹になる。中世の写本筆写者は羊皮紙の書き込みを消すために軽石やその他のスクレイパーを使わなければならなかったが、言い換えれば、記述とはいつでも身体的重労働であり、記述が行なわれる表面と同じくらいハードだったのである。
(Mary Carruthers, The Craft of Thought: Meditation, Rhetoric, and the Making of Images, 400–1200, Cambridge: Cambridge University Press, 1998, p. 102. 邦訳はティム・インゴルド『ラインズ 線の文化史』工藤晋訳、左右社、2014年、222ページより。)