展覧会最終日滑り込み×2、Esprit Dior展と「リー・ミンウェイとその関係」展へ。
いくつかメモ書き


☆Esprit Dior
・「ムッシュディオール」による伝説化されたシルエットやモティーフの、後任デザイナーたちによる「解釈」や「引用」(=自メゾンの「アーカイヴズ」からの引用というデザイン手法)
・フェミニニティが身体において体現される場としての「ウエスト・ライン」
・『彼自身によるディオール』(デザイナーが自らを語る自叙伝)というイメージ構築手段
・chicは階級転覆的だが(例えばシャネルのchic pauvre)、ディオールが体現するとされたéléganceは階級温存的?
ディオールのデザインが美しいのは「見れば分かる」ことなのだが、この種の「高級メゾン」の美や優雅さばかりをことさら強調するような言説は、一種の階級制度(文化的、精神的なものも含めて)やlookism(外見による選別主義)の温存・再生産へと横滑りしていく危険もあるのではないか。
・すべてオフホワイトのシーチングで作られた「トワル」の展示。色彩や布地毎のテクスチャーによるヴァリエーションが脱落する分、形態が全面に出て、並んでいると独特の美しさがある。


☆リー・ミンウェイ
・いくつかの「関係性」:もの同士の関係性(古典絵画と再解釈、石とそのレプリカ)、人間同士の関係性を繋ぐオブジェ(手づくりのもの、手紙…)、アーティストの個人的記憶を作品化する(とりわけ祖母の思い出)、アーティストと鑑賞者が直接関係を持つ(ともに眠る、ともに食す、ともに会話し過ごす「リビング・ルーム」プロジェクト)、鑑賞者が介入することで作品が変容する(The moving Garden、砂のゲルニカ
・使い古した日常の布小物を「繕ってもらう」(The Mending Project)
・親族(特に母親や祖母)が幼少期につくってくれた服の思い出を、箱にしまって紐を掛ける(Fabric of Memory)
・関係性の網目を紡ぎ出すものとしての手紙、共食、贈与
・砂絵で再現したピカソの《ゲルニカ》の上を、入場者に歩いてもらい、その後を掃きならした《砂のゲルニカ》。ただ見ると、色の砂が成すマーブル模様でしかないのだが、生成プロセスを知ることで色々な解釈が立ち上がってくる。
オクタビオ・パスのテクストが着想源だという《往くと留まるのあいだ》。馬頭琴の音色を背景に、黒く塗られた部屋の唯一の光源である割れた電燈から、黒い砂がひたすらさらさらと流れ落ち、円錐を成していく。砂はところどころがきらきらと光っていて、それを見つめていると深閑とした気持ちになる。