潜行者 特別版 [DVD]

潜行者 特別版 [DVD]

妻を殺害したという濡れ衣を被せられた男が脱獄し、追跡の目から逃れるために顔を整形手術で変えて真犯人を探すというストーリー。主人公が「顔を変える」場合、特殊メイクを施す(『他人の顔』)、俳優を二人使う(『フェイス/オフ』)といった方策もあるが、この作品で採られているのは、「変化前の顔を写さない」という、映画としては特異な手法。前半部分では、カメラのフレームと主人公の視界が一致し、いわば一人称の視点から世界が写し出されている。主人公の手や足は見えるのに、顔は(当たり前のことだが)画面に映らない。ストーリーやプロットの説明も、その多くを主人公の独白に頼っている。「語り」と「眼差し」の位置が転換するのは、整形手術に向かうタクシーの車内。顔の部分が影で隠れた主人公の姿が現れる。「観相学」を心得ているという運転手も、物語上メタフォリックな存在となっている。主人公の顔がはっきりと映るのは、手術を終えた後だが、しばらくは繃帯で顔を覆われた状態が続く。
空間の使い方の巧妙さも、この映画の特徴であろう。タクシーのミラーや、集合住宅のドアの覗き窓によって人物の顔が切り取られるシーンでは、アングルや構図が非常に緻密に計算されている。ローレン・バコールの住むマンションの、曇りガラスでできた外壁やエレベーターホール(発光する函の上下運動によって、サスペンスが強まる)。追い詰められた真犯人が窓から投身自殺してしまった後に、主人公が駆け下りてくる非常階段の、Z字型の連鎖など。