身体を拘束する規範としてのbienséance、convenance

新古典主義の時代には、bienséance、convenanceの2概念が、建築に関する規範となった。
参考論文:白井秀和「ビアンセアンス(bienseance)を巡って-フランス古典主義から啓蒙主義に到る建築理論の重要概念についての概要 」
同「ビアンセアンスとコンヴナンス : フランス古典主義建築理論の重要概念について」
しかしこの2概念は元来「相応しいこと」の意で、一般には(宮廷人的な)礼儀作法の意味で用いられる。建築と人間身体の両分野にまたがるこの概念を、「自然」や「野蛮」と見なされる属性を拘束し、あるいは削ぎ落とすこと、として捉えられないかと思い、まずは「礼儀作法」としての用法を調べてみた。手元にあったJean-Claude LebensztejnのManières de table(Paris: Bayard, 2004)には、1703年初版刊行の礼儀作法書の一部が抜粋されている。Saint Jean-Baptiste de La SalleのLes Regles de la Bien-seance et de la civilité chrestienne. Divisé en deux Parties, à l'usage des écoles chrestiennes, Troyes et Reims, Godard, 1703の第4章である。書名『礼儀の規則とキリスト教徒の作法、二部構成、キリスト教神学校用』が示す通り、良きキリスト教徒としてのマナーを示したもの。「食事について」書かれた第4章は、次のような構成になっている。

第1項:食前になすべき事柄について。手を洗うこと、食卓での祈り、食卓に座る際のマナー
第2項:食卓についている間に使用する物(ナプキン、皿、ナイフ、スプーンの類の使用法が説かれている)
第3項:食卓についている間に、食事のために依頼し、要求し、受け取り、あるいは手に取る際のマナー
第4項:肉を切り分け供する際のマナー、並びに自分で食する際のマナー
第5項:相応に(honnestement)食するための食事マナー
第6項:ポタージュスープを食するためのマナー
第7項:パンと食塩を供し、手に取り、食する際のマナー
第8項:骨、ソース、果物に関してとるべき対処についてのマナー
第9項:食卓についている際に、飲み物を求め、受け取るときのマナー
第10項:食卓を離れる際に、並びに食物を供し、また退ける際のマナー

今日の目からみると滑稽なほど、食卓での所作を細かく分節した上で、微に入り細を穿って「キリスト教徒に相応しいマナー」が説かれている。行動の「相応しさ」を表すために使われている語彙は、Bien-seanceの他にcivil、honneteなどがある。
ジャン=バティスト・ド・ラ・サール(1651-1719)はカトリックの聖職者。青少年教育を目した修道会や、世界初とされる師範学校を設立した。中高一貫進学校として知られる日本のラ・サール学園は、この修道会の系譜を引くものだという。