旅としてのテクスト、庭園としてのテクスト 

旅――帰還を念頭に置かない旅だけがもろもろの生の扉をわれわれに開き、真にわれわれの人生を変革させうるものであるにしても、とりわけて高尚にかなった散策、二、三時間で振り出しの繋索へ、わが家の籬のうちへとたちもどる――波乱もなく意外な出来事とてない――ささやかな旅にはより隠密なあやかし、魔法使いが杖を振るにも似た魔力が結びついているものだ。(ジュリアン・グラック「狭い水路」、上掲書229ページ。)

テクストと表象

テクストと表象

  • 作者:小西 嘉幸
  • 発売日: 1992/04/01
  • メディア: 単行本
 

もともと庭というものは駆け抜けるためにあるのではない。そこにあらかじめ敷かれた小径を辿ってゆるやかな足どりで進みながら、くさぐさの出会いや細部の発見を丹念に噛みしめるときはじめて、本当の魅力と秘密を明かしてくれるだろう。(上掲書、91ページ。)

 

「テクストの庭のたっぷりと時間をかけた散策」(小西、上掲書、91ページ)という、書くことと読むことの経験。

風景画と同様に、あるいはそれ以前に、風景式庭園もまた、そのなかを散策することで「ピトレスクな旅」のテクストが紡がれるという性質をもっている。その意味では、「テクストのなかでタブローを描く」系譜に連ねることができるだろう。そこでもまた、「歩行のナラティヴ」が重要となる。

絵画や文学で描かれたアルカディア的風景の再現を目指した風景式庭園は[…]遊歩者は緑陰の小道を進みながら、それぞれに設定された「絵になる」眺めや、文学的、歴史的喚起力をもつモニュメント、あるいはファブリックを「発見」し、楽しむのである。それは一種の「ピトレスクな旅」と言える。

(展覧会図録『ユベール・ロベール 時間の庭』国立西洋美術館ほか、2012年、224ページ(ロベール《メレヴィルの城館と庭園》1791年の解説)