立秋を過ぎたとは思えない、陽射しが熱した油のような日、神奈川県立近代美術館葉山館で開催中の「クエイ兄弟:ファントム・ミュージアム展」(http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/exhibitions/2016/quaybrothers/index.html)へ。点数では静止画のパネル展示と映像プロジェクションが多いが、やはり「ストリート・オブ・クロコダイル」をはじめとするパペット・アニメーションのデコール(ドールハウス式の舞台背景)がひときわ眼を惹いた。
実際のスケールが映像を見たときの感覚と微妙に異なっていることに気づかされたし(「ストリート…」も「ギルガメッシュ/小さなほうき」も、予想よりも大きな人形を用いていた)、例えば「ストリート…」のデコールには、経年を示す紙の変色やガラスの曇りが、それと分かるように意図的に加えられていることも分かった。覗き口に凸レンズの付いたデコールが数点展示されていたが、これは視線を少しでもずらすと極端に歪型された像しか得られず、アナモルフォーズクエイ兄弟にはこの視覚遊戯をテーマにした短篇もある)の逆ヴァージョンのようでもある。


MTVのミュージック・クリップや企業CMでも活躍しているというクエイ兄弟のキャリアが、美術学校の学生だった頃のデッサンから2016年のものまで辿れる展示構成となっているが、私がいちばん心惹かれたのは相変わらず、彼らにとって出世作ともなった「ストリート・オブ・クロコダイル」だった。過去にも現在にも未来にも属さないような場所に、秘密裏に造られた無機物たちの縮小世界といった風情が、覗き込むうちに、現在の喧噪に疲れた精神の鎮静剤になってくれる。


今回初めて知った作品だが、「仮面」のデコールもよかった。壊れ汚れた人形の不完全さ、無機物としての素性が剥き出しになった姿には、逆説的にも、なにか魂が宿っているかのような凄みがある。