資生堂ギャラリーまで、「Frida is 石内都展」(http://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/)へ。フリーダ・カーロの自邸に遺言により仕舞われていた、彼女の衣服や靴や化粧品、日記といった日用の遺品を、石内都氏が写したもの。2013年のパリ・フォトでの展示を耳にしてから、ずっと観たいと思っていた展示である。


「残された痕跡から出来する、不在の身体の亡霊的な回帰」と言ってしまえばありきたりになるが、かつて現実の肉体が使用していて、その後も固有の時間を経てきた、その個別性の刻印のようなものが、一つ一つの物の細部に捺されているのが見える。左右で大きさやヒールの高さが異なり、摩耗や形崩れも対称ではない靴や、ひび割れや剥落の入った手鏡、爪先を手縫いでつくろったストッキング、最期まで記していたという絵日記の、一枚一枚の頁が膨れ捲れ上がっているのが分かるノートの地の部分、使い残されその後の時間で固まってしまった、小壜の中のマニキュアなど。


かつて一人の女性が身近に使用し、経過した時間とともに古びて摩耗した物の数々。50年の時を経てそれを前にしたカメラが、さりげない、しかし決定的であろうその一部分を写して、その映像が今眼の前にあるということの、時間的な隔たりと物質的な固有性の近さとに、目眩に似た感覚を覚えた。