本日は、白井秀和氏のルドゥ註釈で言及されていたJames Stevens Curlの著『The Egyptian Revival』を検分。
要は、ルドゥの(その奇矯さで有名な)建築図「ブザンソンの劇場への一瞥」が、アルベルティの肖像コイン(15世紀半ば制作)裏面に彫られた「翼を持つ眼」というエジプト由来のモティーフを連想させる、という指摘である。何らかの実証や検証があるのかと思いきや、「It would seem that …」や「recalls」、「probably」と書かれているだけで、肩透かしを喰らう。お前の連想ゲームなんぞ誰も訊いていないのである。
  

しかし、1982年刊のこの著作は、古代ギリシア・ローマ時代から20世紀まで、ヨーロッパの造形芸術の中に表れ出てきた「エジプト趣味」を概観したものであり、その意味では「ある時期の人文学にしばしば見られた、博覧強記の碩学による広大な見取り図」という意義はあるのだろう。なにしろ、ロンドンの公共ベンチのスフィンクス装飾――要は大量生産品の意匠――まで取り上げられているのだから。


ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』におけるルドゥーについての記述も再確認。
18世紀後半の「造物主」イメージのリヴァイヴァルと幾何学都市について、今となっては非常に詰めの甘いことが書かれているが、デミウルゴス主義の極北がルドゥであったという指摘は、著者が建築史の専門家で無いことも考えれば、おそろしく鋭いものであろう。