『百科全書』と世界図絵

『百科全書』と世界図絵

18世紀人にとっての世界図絵とはカタログであった。
(30ページ)

著者はその例として、以下のものを挙げている。
・リンネの二分法に基づく植物分類
・ラモーの近代和声学(音の組合せの組織化・体系化)
・フランスにおける主題別百科事典(経済学事典など)の編纂
・大貴族コレクターによる蔵書目録の編纂
・マリヴォーの演劇(恋愛心理のカタログ)
・メルシエ『タブロー・ド・パリ』(大都市を網羅的に記述したテーマ別事典)
・サドらの小説(人間の情動や行動に関する架空の図録)


確かにサドにおける乱交は、単純な規範からの逸脱や秩序の紊乱ではなく、むしろ数学的な「順列組み合せ」に近い。あらゆる可能なカップリングを隈無く記述するという試みである。
この著者は特に言及していないが、18世紀のカタログとしては、イギリスの家具職人チッペンデールによる家具カタログも特徴的である。椅子の脚部装飾のヴァリエーションや肘掛けの有無など、部分毎のオルタナティヴを左右非対称の図版で示している。

The Gentleman and Cabinet-Maker's Director

The Gentleman and Cabinet-Maker's Director


ルドゥの『建築論』も、(未完に終わってしまったが)ユートピア都市構想であると同時に「建築物のカタログ」をも目指していた。すでに何度か口頭発表で触れたけれど、ルドゥの図版と百科全書の図版は、アクソノメトリーに近い透視図法を用いており、「三次元を二次元上に可視化するシステム」という点でも共通点がある。世界を隈無く開示するための試行錯誤とでも言うべきもの。
 
『百科全書』よりロシュフォールの造船所(ルイ=ジャック・グーシエ版画、ベラン下絵)

ルドゥ『建築論』より樵の家

ルドゥ『建築論』より監督の館横断面