「性格」と「語る建築」 

  • ジャック=フランソワ・ブロンデル(ブレー、ルドゥーの師)

 個別主義に対する要求は、新しく起こりつつあった、性格を求める動きと密接な関連があった。そしてブロンデルは、ひとつの構造物の性格を表現することができるためには、とりわけ、その構造物の特別な意義を把握しておかねばならないと考えた。建築は、一八世紀後期が、性格の持つ「さまざまな神秘」を見通そうと試みた唯一の領域ではなかった。まさしく巷に拡がった人相学の研究も、こうした方向性を持った同様の企てであった。ルネサンスの建築家たちが、人体の計測を学び、これらの成果を建築に適用しようと試みた一方で、――ブロンデルの輪郭線は、こうした真剣な努力のうちの後期の例と言える――、建築家たちは今や、人間の持つさまざまな特性を、いろいろな建築に徐々に浸透させようと試みたのであった。語る建築(architecture parlante)――すなわち「物語風の(ナラティヴ)」建築――の時代の幕が、今や切って落とされたのであった。[…]
 『建築講義』の第二巻は、もっと圧縮されたかたちで、同様な考えの数々を呈示している。すなわち、それぞれの建築作品は、自らの目的を表現し、それに応じて形を決められるべきである、と。(エミール・カウフマン『三人の革命的建築家――ブレ、ルドゥー、ルクー』白井秀和訳、中央公論美術出版、1994年、34-35ページ。)

古典的な美学のかなめのひとつは、適正さ(デコールム)を考えること、すなわち庇護者の社会的な序列を考慮することを意味した、適合性(convenance)という範疇であった。ブロンデルにとって、適合性は、固有の雰囲気を考察することを意味した。
(上掲書、37ページ。)