ディジョン建築探訪

11世紀以降、戦争による襲撃にも焼き討ちにも遭わなかったというこの街には、中世のままの建築物と街路が残っている。いくつもの道や路地が錯綜する都市の形態は、区画整理によって碁盤状に整えられた地勢に慣れた日本人の身体には、迷宮のように感じられる。

これもディジョンでよく見掛ける建築様式。建物の一角に、円筒形に張り出した空間がくっ付いている。はじめは螺旋状の階段室かと思ったが、そうではなく、普通の円形の小部屋らしい。3、4階建て程度の建物の2階以上の部分に付いているので、見張り用の部屋というわけでもなさそうだ。大抵の場合、豪勢なモールディングで飾られている。

極彩色のモザイクタイルで模様の描かれた屋根。手前のパラペットの形も、いかにも西洋の古い都市という風情で、遠い昔に読んだ絵本の中の街並を憶い出させる。

レリーフのある門扉。おそらくウルカヌス(鍛冶の神)とバッカス(酒神)。奥にはやはり極彩色のモザイクをあしらった屋根が見える。

19世紀に建造されたという市場の建物。火曜日と土日には市が立つ。19世紀の公共建築をシンボライズする材料、鉄とガラスから出来ているが、ハイキーな色で塗り分けられ、ところどころに古典主義的なレリーフの嵌め込まれた外観は妙にキッチュ。同じ材質から同時代に作られた、いわば建築的同胞であるはずのパリのパッサージュやボン・マルシェ、グランパレやあるいはロンドンの水晶宮とはほとんど似ていない。

大公宮殿前の半円形の広場を、放射状に延びた路地のひとつから覗いた風景。