反復される退屈

薄曇りの土曜日(19日)、FRAC(Fonds Régional d'Art Contemporain de Bourgogne、サイト)のギャラリーに足を運ぶ。FRACとは1983年以来フランスの各地方毎に設置されている組織で、その名(現代美術地方財団)の通り現代アート関連の普及・援助・教育活動を行っている。コレクション形成にも力を入れていて、地場のアーティストの作品を中心に、毎年コンスタントに買い上げを行っているようだ。ブルゴーニュのFRACは、文化通信省(政府)、それからブルゴーニュ地方議会とコート・ドール県議会(地方公共団体)による財政支援の下にある。
旧市街から少し外れた住宅街に、かつては倉庫だったと思われる建物(従来の用途については未確認)を転用したギャラリーがある。Consortiumの事務所があるかつての製靴工場(*)の、目と鼻の先だ。概観は昔ながらの煉瓦造りだが、中は床まで真っ白なホワイトキューブ空間だ。ところどころにマンホールのあるコンクリート製の地面の上に白の塗料を重ねているので、あちこちにかつての凹凸が残って、まるでベン・ニコルソンの白のレリーフ*)みたいになっている。
  

開催されていたのは、Rita McBrideとKoenraad Dedobbeleerの二人による、『Tight, Repeating Boredom』と題されたエキシビション。体育館のようなだだっ広い展示空間には、なんと建築物の「天蓋」の一部分が収められている。
    
田園地方の伝統的な民家風の太い材木の梁と、ガソリンスタンドを思わせる構造物。後者の屋根には一部赤いラインが入っていて、脇にはやはりガソリンスタンドにありそうな構築物が二つ並んでいる。それはいかにも「オイルスタンド風」ではあるのだが、特に分かりやすい商標が引用されているわけではなく(この辺りはポップアートやシミュレーショニズムとは対照的だ)、白い二つの函体からも具体的な機能を表す細部が完全に欠落していて、具体的・日常的な部分と抽象的な部分との共存が一種の異化効果をもたらしている。

建築のいちばん「外部」に晒されている部分が室内空間に置かれているという奇妙な状況なのだが、それらは決して完全な被覆物ではない。農家風の梁は木組みだけであるし、ガソリンスタンド風の構築物も、屋根と柱しか持たない、建築としては不完全な空間である。

Rita McBride(米)とKoenraad Dedobbeleer(ベルギー)の共同展示は、今回が初めてとのこと。ギャラリーの入口に置かれていたカタログによると、両者とも、現在の都市にありふれているような建築物の一部分を室内の展示空間に持ち込むというスタイルで活動しているアーティストであるらしい。

このKoenraad Dedobbeleerと建築家Kris Kimpeによって刊行されている「建築についてのfanzine」、『UP』のバックナンバーも見本が置かれていて、これがなんだか面白かった。薄く小さい、パンフレットのような体裁で、各号ごとのテーマに基づいて建築物を写した写真が載せられているだけなのだが、ごくごく日常的な薄汚れた場所(グラフィッティの施された場末の建物、埃の積もった廃屋の内部、とりたてて特徴のないミッドセンチュリーのアパート)を、曇天の日のようなアンダー気味のトーンで写し出した写真に心を惹かれた。(この『UP』関連の情報を検索してみたのだが、特にサイトなどは運営されていないようだ。編集者の二人が出展した「Extra City」*というエキシビションのページが見つかったくらいである。)