幻想の中の過去

早くはドイツの哲学者フリードリヒ・フォン・シュレーゲルが、一八〇二年にミュゼ・ナポレオンに展示されたベアト・アンジェリコデューラーファン・エイクらの作品を称讃し、その後ナザレ派やラファエル前派の芸術や思想において表面化してくる、このような「プリミティヴ趣味」は、失われた全体性や、美と宗教との合体といった理想を過去の文化・芸術に投影しようとする点で、基本的にロマン主義的な想像力に培われたものであった。このような趣味が、政治的なニュアンスをはっきりと帯びてくるのは、やはり十九世紀後半のことである。[…]「プリミティヴ」な画家たちの内にこそ、「国民的」で「民族的」、「宗教的」で「道徳的」な価値が、いっそう純粋なかたちで結実しているというわけである。
岡田温司『芸術と生政治』平凡社、2006年、41−42ページ)