西野達 天上のシェリー展(メゾンエルメス)
銀座エルメスビルの最上部に聳え立つ旗を掲げた騎馬像の周囲を、プレハブで囲ってしまうという企画。会場に辿り着くまでの足場は想像以上に怖いものだった。 手すりは腰くらいまでしかないし、大きく開いた欄干の隙間はひ弱そうなネットが張られているだけだし(勢いよくよろける人がいたら、突き破ってしまいそう)、しかも足場に敷かれた金属板は、ところどころ動いてずれるものが…
銀座でいちばん高いと思われる最上部にやっと辿り着くと、エルメスの制服にパンプスで優雅に微笑むエルメス店員。その後には鉄パイプと青いネットの無骨な鉄柵。なんだかもう、絶対的にシュールな光景だった。
展示は、リアルな生活感と親密さを湛えた部屋の中央に、例の騎馬像が聳えているというもの。部屋は、最近上京してひとり暮らしを始めた女子大生に「ありがち」な感じのインテリア。ありがちというか、ディテールが妙にリアルなのだ。
安普請だけれど小奇麗な、女性向けワンルームマンションによくある内装。flanc-flanc辺りで買ったと思しき白いシャギーラグを敷いた上に、クッションとローテーブル。郊外のホームセンターにあるような、中途半端に趣味のいい化繊のカーテン。テーブルや本棚に置かれた小奇麗系カジュアルのファッション誌(non-noやCanCam、PSという選択が妙に具体的でリアル)。机の上には仏和辞書と使用感のある携帯(小さなバスケットを携帯入れにしているところが、若い女子らしい感覚)。ベッドカヴァーやその周囲にあるボックスなどは、ちょっと頑張ってヒルズ辺りのハイブロウなインテリアショップで揃えた感じだ。
そして、そのベッドの真ん中に騎馬像。エルメスのスカーフの旗を持った、巨大で勇壮な彩色騎馬像(馬の尻尾に制作者の署名入り)。日本人にはおよそないセンスの、歴史的なものへの激躁状態の誇りを感じさせるような、モニュメンタルな騎馬像。それが、「異化効果」でもなんでもなく、極めて平凡で平均的な「女の子の部屋」に、なんだか自然に馴染んで見えたのがすごい。
作者の西野氏は、ドイツの教会上の天使像などを用いて、似たようなインスタレーションを作っているそうだ。