書籍紹介

 

香月孝史『「アイドル」の読み方:混乱する「語り」を問う』青弓社、2014年。
出版社の紹介ページ(目次あり):https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787233721/

卒論・卒制ゼミでは「アイドル」をテーマとする学生が毎年一人は必ずいるのだが、論点やアプローチを考えるうちに、混乱してしまいがち。そういうときに思考を整理してくれそうな一冊だった。

刊行年からも察しがつくが、この本で取り上げられているのは2010年代前半、AKB48PerfumeももいろクローバーZ、BABYMETAL、でんぱ組までの女性アイドルである。エピソードとしては、峯岸みなみの「交際が発覚して坊主にした事件」まで。逆にいえば、日本で女性アイドルが一大ブームとなり、モード系のファッション誌や西洋美学専門の大学教員までもがPerfumeももクロを取り上げるようになった時期、アイドル論が百家争鳴?となった時期でもある。

アイドル=低俗、子供・若者向き、パフォーマンスのレベルが低いというステレオタイプの存続と、ある種のアイドルを称揚する際に「アイドルらしからぬレベルの高さ」という価値が持ち込まれる状況(これは近年の「K-POP上げ、日本のアイドル下げ」の言説にも継承されている)、アイドルに対するファンの感情は、本当に「疑似恋愛」と言いうるものなのか(それでは異性愛者の同性ファンはどうなのか、女性アイドルの女性ファンであれば「男性的視線(male gaze)の内面化」という単純な話に留まるのか)、なぜアイドルは「恋愛禁止」なのか、それはどのような性質の「禁止」であり、誰が誰に命令しているのか…… アイドル(特に女性アイドル)とそのファン文化について個人的に抱いていた疑問が、一通り「言語化」されているという感じを受けた。

また、アイドルのSNS発信(当時はTwitterGoogle+Ustream)についても触れられている。そこでは「アイドルのパーソナリティ」や「素顔」までもが「コンテンツ」(商品、消費対象)となり、ファンとの双方向コミュニケーションが一般化し、それがアイドルへの負担となる一方で、アイドルとファンが互いの人格を相互承認する場ともなっている、ということが分析される。
ここ1年はフィジカルなライヴや握手会などの開催が制限されたこともあり、オフステージや「普段の姿」を見せるものも含め、アイドルのオンラインコンテンツが充実した時期だったのではないか(ついにジャニーズも、一部のグループではインターネット発信が解禁になったとか)。そういう点でも、最新の状況までは網羅されていないながら、「考えるための補助線」を提供してくれる一冊だと思う。