ドーピングの哲学: タブー視からの脱却

ドーピングの哲学: タブー視からの脱却

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 新曜社
  • 発売日: 2017/10/31
  • メディア: 単行本
 

 スポーツと「健康」の両義的関係と身体の近代

いったい競技スポーツはいつから「健康」とたもとを分かってしまったのだろうか。[イザベル・]クヴァルはその発端を、「スポーツ」と「体育」とが分離を始めた二十世紀初頭に見出す。心身の健康の促進を目指す近代的な「体育」は、十八世紀の啓蒙思想の発明品であり、フランスでは「体育」(éducation physique)の語は医師ジャック・バレクセールが一七六二年に刊行した書物にまで遡るとされる。クヴァルの言うように、「スポーツは、まずは教育的なプロジェクトとして出現した」。この体育が、古典的な体操から別れて、貴族的・軍事的な価値ではなく、「自己の超越」というブルジョワ的な価値を追求し始めたときに、スポーツが体育から分離して、独自の発展を遂げるための萌芽が生まれる。絶えず事故を超越し、「より速く、より高く、より強く」(citius, altius, fortius)を目指す、近代的な競技スポーツの出現である。

(訳者解説、上掲書298ページ。)