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テクストと映画の翻訳関係(翻案・アダプテーション)
クロス・カッティングのほかにも、移動撮影、俯瞰撮影やクローズアップなど、サイレント映画の発明とされる技法のいちいちは、その対応例を過去の小説、とりわけ19世紀に確立されたいわゆるリアリズム小説のうちに見出すことができる。それは当然のことでもある。フランスに限っても、バルザック、フローベールを経てゾラへと至る19世紀小説の大きな流れはひとえに、現実を目に見えるようにしたいという願いに導かれていたからだ。
( 上掲書、114ページ。)
この後に著者は、バルザックが眼前の事物に時間経過や歴史展開も見てとろうとしたという例を挙げている。
近代小説における、視覚的要素に特権的な重要さを与えようとするこうした方向性は、19世紀半ばにフランスで写真術が発明されて以降、写真との競合というかたちでいよいよ顕在化していく。
(同上、115ページ。)