安部公房と都市。1960年代から70年代にかけての、日本における「住宅」をめぐる言説との関係はどうなのだろうか? そういえば『燃えつきた地図』は、一種の「団地小説」でもある。

都市との距離という問題は、1960年代後半から70年代前半においては建築に限られた問題ではなかった。たとえば小説家の安部公房が1967年に発表した『燃え尽きた地図*1』は、作者自身の言葉を借りれば「都市からの解放」ではなくて「都市への解放」の方法を模索した作品として知られている。そして彼は1973年の『箱男』でその関心を更に推し進めた。主人公は箱を頭からかぶることで、外からの視線を防ぐと同時に、いかなる社会的な属性からも解き放たれて、都市の中でいわば視線だけの存在になれるポジションを得た(あるいはそのような幻想を得た)のであった。もし箱を「最小限住居」の比喩と見ることがもし可能ならば、箱男とは家と内面とを一体化させようとした結果のいびつな存在とみなすことができるだろう。

(保坂健二朗「日本の戦後の住宅の系譜学について」、『新建築住宅特集 2017年8月別冊 日本の家:1945年以降の建築と暮らし』2017年、238ページ。)

 

安部公房の文学作品と都市表象については、すでに以下の書籍もある。

安部公房の都市

安部公房の都市

 

 

*1:原文ママ、正しくは『燃えつきた地図』