・シャルル・ボードレール(1821-1867)のダンディ論
ダンディスムとは一個の漠然たる制度、決闘と同じほど奇異な制度である。[…]ダンディスムは、法の外の制度でありつつ、自ら厳しい法をもち、その権威に服する以上誰しも、他方いかに血の気の多く独立不覊の性格をもつ者であろうと、厳格な服従が要求される。
ダンディスムとは[…]身だしなみや物質的な優雅に対する法外な嗜好、というものでさえない。それらの物事は、完璧なダンディにとっては、自らの精神の貴族的な優越性の一つの象徴にすぎない。だから、何よりもまず品位に夢中になっている彼の目から見れば、身だしなみの完璧さは絶対的な単純の裡に存するものだし、事実、絶対的な単純こそは品位をもつ最善の方途である。それにしても、教理と化して傲然たる宗徒たちをつくったこの情熱、かくも尊大な階層を形成したこの不文の制度とは、いかなるものであるか? それは何よりもまず、一個の独創性を身につけたいという熱烈な欲求だが、礼節の外面的な埒の中にあくまでもとどまっている。自己崇拝の一種であって[…]
ダンディスムは特に、民主制がまだ全能となるにはいたらず、貴族制がまだ部分的にしか動揺し堕落してはいないような、過渡の諸時代に現れる。[…]ダンディスムとは頽廃の諸時代における英雄性の最後の輝きだ。
ダンディの美の性格は、何よりも、心を動かされまいとする揺るぎない決意から来る、冷ややかな様子の裡にある。
(シャルル・ボードレール「現代生活の画家 9.ダンディ」(初出1863年)、阿部良雄訳『ボードレール批評2』ちくま学芸文庫、1999年、191-196ページ。)
ボードレール批評〈2〉美術批評2・音楽批評 (ちくま学芸文庫)
- 作者: シャルルボードレール,Charles Baudelaire,阿部良雄
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