リベルタン的性愛文学の本文と挿絵

女哲学者テレーズ

女哲学者テレーズ

訳者解説がなかなか充実している。この書の神に対するスタンスが理神論に近いこと、ラ・メトリ『人間機械論』からの影響、版毎に異なる挿絵(版画)の整理、挿絵と本文との関係の分析など。(2007-2010年度科研費の成果公開として出された訳書である。)
この訳者解説から、「テクストとイメージ」の関係を論じた部分を抜萃しておく。

テクストと版画の違いは、テクストが読者を物語の時間の流れの中に誘い、語り手あるいは登場人物とともに行動をするかのように導くのに対して、版画は停止した時間の一場面を読者に見せる点にあるだろう。版画の鑑賞者は、本来覗くことができない性的行為の現場で、自らを覗きの位置に置くことになる。ただし、テクストと版画ではその位置は異なっていて、テクストは物語の内部に覗きの位置を置くのに対して、版画はあくまでも版画の外部に覗きの位置があると言える。そういう意味ではテクストと版画は互いに補完し合っているにしても、役割の違いによって自立したものと見なすべきである。
ところで、テクストでは哲学的な議論と性行為の場面が交互に描かれているのに対し、挿絵では性に関わる場面しか描かれていない。つまり、挿絵はもっぱら性的場面を読者に提示するという目的しかもっていない。[…]書籍販売業者が何を狙っていたのかは、この挿絵の内容から自ずと明らかになってくるだろう。