集合住宅という場

異邦人 (新潮文庫)

異邦人 (新潮文庫)

ここに登場する空間は、ほぼ二種類に分けられる。絶対的開放空間であり、決定的な邂逅や事件の起こる場としての海辺と、狭小な閉鎖空間(第一部のアパルトマン、第二部の監獄)である。
モダニティの特権的な場「街路」ではなく、19世紀ブルジョワ的な室内でもない、狭小で閉鎖的だが、他者が常に隣にいる(だからこそカップルの喧嘩や犬を怒鳴りつける老人の存在が、日常の小さな出来事となる)空間としてのアパルトマン。


他に「集合住宅もの」の系譜として。

幻の下宿人 (河出文庫)

幻の下宿人 (河出文庫)

隣人との関係が物理的に密接だからこそ増幅される、心理的な閉塞感。


裏窓 [DVD]

裏窓 [DVD]

主人公の窃視欲動の対象となるのが、集合住宅の住人たちによる「人生の一覧表」。グリッドで区切られた近代的なアパートメントの構造も、個別性と交換可能性が併存する「一覧表」という性質を強化している。


屋根裏の散歩者 (江戸川乱歩文庫)

屋根裏の散歩者 (江戸川乱歩文庫)

こちらは日本近代版の「集合住宅と窃視」モティーフ。日本型家屋においては、『裏窓』のような垂直性やグリッド構造ではなく、水平に並ぶ各部屋とその上部の「屋根裏」が主人公の窃視を担保する空間構造となる。