しとやかな獣 [DVD]

しとやかな獣 [DVD]

とある自主研究会で他メンバーが行う発表の予習として、川島雄三監督『しとやかな獣』1962年(Amazonビデオ:https://www.amazon.co.jp/dp/B015AMWFPA/)を観た。晴海高層アパートメントが舞台の「建築映画」としてもの凄く面白く、興奮してしまった。

集合住宅の一室に集約されてくる様々な人間関係、覗き見と盗み聞きのモティーフ、カメラが基本的には室内とその周辺から出ない、などというところは、ヒッチコック『裏窓』に対するアンサー作品のようにも思えるのだけれども(「制作者の意図」としてこのような趣旨があったかは調べていないが)、晴海高層団地特有の間取りや建具、開口部のデザイン(覗き見と盗み聞きを可能にする)や共通階段の構造(「家賃が低い棟にはエレベーターが無い」旨の会話有り)、高層性(投身自殺が可能)といった要素が、映画内でのストーリー展開やサスペンス性に影響しているところが独特である。

なかでも印象的なのが、ベランダに通じる広大なガラス製掃き出し窓。竹竿にステテコや手拭いが干され、ベランダの片隅には盥やら何やらが積み上げてあって、そこは例えば小津映画に登場する庭先とあまり変わらないのだが、巨大なガラス窓越しに映し出される異様な空模様(明らかに合成画像)は、1950年代末竣工の高層アパートメントでないと撮れない映像ではないか。共有スペース(似たような戸がぐるりと並んでいるので、取り立てにやってきた老マダムが部屋を間違えるシーン有り)と室内の対比、シャワー付きの西洋化された水回り、収納スペースの効率性など、その他にも細々と(建築的に)面白い描写があった。

ちょうど先日赴いた江戸東京たてもの園の「ル・コルビュジエ前川國男」展(w.tatemonoen.jp/special/2017/170530.php)で、晴海高層アパートの模型と図面が出展されていた。不勉強で知らなかったのだが、設計は前川國男で、ル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオンをモデルとしつつ、畳や障子を新たな解釈で用いたものだとか。