イメージとしての、運動体としての文字

もうひとつの街

もうひとつの街

主人公がプラハ古書店街でたまたま手に取った、菫色のビロードで装幀を施した、未知の文字で書かれた本。その古書との出会いに導かれて、幻想の都市の物語が展開する。

私は、本を手に取ってふたたびページを開き、丸味を帯びながらも先端が尖っている、そっけない文字を眺めた。文字の形は、完全に閉じられているのか、あるいは閉じようとしているのか、痙攣して締めつけられ、髪が逆立っているようにも見えた。外から内に入り込んだ尖った楔で力強く剥がされている文字があったかと思うと、内からの圧力でパンパンになり丸く膨らんでいるように見える文字もあった。[…]瞳を閉じると、丸く尖った文字が闇のなかゆらゆらと揺れ動いていた。文字は身をよじり、のたうちまわり、街灯の光に照らし出されて、回転していく雪の渦と化していた。
(上掲書、9-11ページ。)


ニンファ その他のイメージ論

ニンファ その他のイメージ論

第II部「イメージについて」の「来たるべき身体 かつて一度も書かれたことのないものを読むこと」より

ステファヌ・マラルメが舞踏に関して言い表した公理は人々をたえず魅了してきた。いわく、女舞踏手は踊るのではなく、書く。舞踊とは身体の書きものであって、それは「筆生のあらゆる道具から解き放たれた詩」に他ならないとされる。舞踊を創造する者が今日もなお「choréographe(舞踏を書く者)」と呼ばれているということによって、この構想の力強さと執拗さが証される[…]。
(上掲書、90-91ページ。)


フロイト全集〈2〉1895年―ヒステリー研究

フロイト全集〈2〉1895年―ヒステリー研究

ヒステリー身体という「象形文字

我々はヒステリーの症候学をしばしば象形文字になぞらえてきた。象形文字は、二カ国語で書かれたものをいくつか発見した後で、その読み方はわかるようになるのである。この象形文字のアルファベットでは、嘔吐は嫌悪感を意味している。
(上掲書、163ページ。)


美術論集―アルチンボルドからポップ・アートまで

美術論集―アルチンボルドからポップ・アートまで

エルテの文字絵を論じた「エルテ または 文字通りに」より

エルテが生み出す新しい対象とは、半ば「女」、半ば毛髪(あるいは、引き裾)から合成された怪獣[ルビ:キマイラ]のような「文字」である(この語の意味は《文字通りに》[原文傍点]理解されるべきである)。
(上掲書、21ページ。)