十八世紀の恐怖―言説・表象・実践 (叢書・ウニベルシタス)

十八世紀の恐怖―言説・表象・実践 (叢書・ウニベルシタス)

「洞窟への下降と死の恐怖の象徴的経験」の章が特に面白い。地下洞窟へと下っていく経験は、18世紀のテクストでしばしば取り上げられたモティーフであり、そこにはフリーメイソン的モデルと同時に「アエネアスの冥界下り」という古代モデルも存在している。ルドゥーの『建築論』冒頭はまさに、松明の火に照らされて暗い洞窟を(ときに水流や熱気を経験しながら)下って行き、最後に陽光の下に帰還する経路が書かれている。『建築論』に先行する時代のイギリスやドイツの小説に直接影響を受けたのか、それともこの時代、フリーメイソンと『アエネーイス』の融合した世界観が一定の層に共有されていたのか。
トーマス・ブラウン卿なる人物が『ダービーシャー旅日記』(1662年)の中で、横に延びる洞窟を腸管に喩えているのも面白い。岡崎乾二郎氏はルクーの地下洞窟をモティーフとした建築に腸(消化管)の構造を見出しているが、類似の想像力が既に17世紀に存在していたということだ。

他に「18世紀における不能の恐怖と叙述装置」などという章もあって、これはルドゥーの「オイケマ」が「不可視の勃起」な点と巧く絡められたら面白いかも。