ブルゴーニュ生活博物館

旧市街まで出掛けたついでに、Musée de la vie BourguignonneとMusée d'art sacréへと赴く。
Musée de la vie Bourguignonne(ブルゴーニュ生活博物館、一般的な言葉を使うなら民俗博物館)は、かつては修道院だった建物にある。
1階は企画展示室で、現在はディジョンで制作された商業ポスター展(19世紀から20世紀前半のもの)をやっていた。ミュシャロートレック、カッサンドル風味のもの、何故か日本の往来が描かれているものなどがあって、当時の商業芸術特有の紛い物っぽさが楽しい。Terrotという自転車・オートサイクル製造の地場メーカーのポスターも数枚あった。コルセットにバッスルスタイルのスカート、頭には帽子というスタイルのご婦人方が自転車に跨がっているポスターも散見される。今日でいう「美女と自動車」のような広告手法なのか、それとも女性消費者にアピールするための方策なのか……
常設展示室に入ると、まず薄暗い照明とガラスケースに入った古い蝋人形たちに圧倒される。蝋人形たちは表情の大袈裟さや表面の劣化具合から見るに、おそらくかなり古いものだろう。一体一体、顔立ちも表情も異なっていて、薄暗がりで見るせいか妙に迫真性がある。このような蝋人形たちが、街の結婚式の行列から家族の団欒、女たちのレース編みの集い、子供部屋の光景、台所でのおさんどんに至るまで、凝固したパントマイムを繰り広げている。説明文はプレートではなく、ガラスケース上に筆記体で記されている。この蝋人形たちが展開している生活風景は、全て19世紀くらいの時期のものだ。当時流行したインテリアなのか、展示にはしばしば、ガラスケースに入れられたドライフラワーが登場する。「ガラスケースに入った蝋人形たち」を縮小されたかたちで反復しているようだ。当時のパン焼きやジャム製作について説明したパネルも、絵本のようなイラストレーションが素朴な可愛らしさ。展示はテーマ毎に区分けされていて、そこには人体の一部を象ったムラージュのオブジェが置かれている。
    
2階には19世紀当時の古い商店街が再現されている。小規模の、室内に設えられたドールハウス型の展示ではあるが、趣向としては日光江戸村や東京たてもの園、明治村などと共通のものがある。こちらでも、当時の美容室を再現した場所には蝋人形が座り、病院の展示ではアンティーク調のビスクドールが当時の修道女の格好を再現していた。(子供部屋の展示でも、赤ん坊の役割を努めていたのは古そうなビスクドールたちである。)
    
歴史学や文化社会学的立場から作られた、教育と研究のための施設というよりも、むしろ甘く感傷的なノスタルジーに耽るための場所という趣きのミュージアムである。19世紀のアンティーク小物や古い西洋人形が好きな向きであれば、間違いなくはまれる場所だろう。色々な意味で「ガーリーなミュージアム」と言おうか。(その点で、「知的マッチョ」な方には不満の残る展示かもしれない。)そう言えば、1階の展示でも焦点を当てられているのは女性、ないしは女性的な領域(家庭、家事仕事)である。
ブルゴーニュと言えば中世には一大公国だった地方で、もっと「パリとは違う我々の土着文化」や「かつての我々の栄光」と言った、ナショナリズムの縮小形としての郷土愛を前面に出した展示になっているかと思っていたのだが、そう言う意味では全く期待外れだった。そもそも展示されているのは19世紀から20世紀初頭にかけて、ベルエポックと呼ばれていた時代の風物がほとんどである。かろうじてブルゴーニュ性が強調されていたのは、2階にあったキャンディー屋の店舗(l'épicerie Fagartという、目抜き通りに1888年から1978年まであった店舗を模したもの。アニス風味のボンボンはブルゴーニュ名産物のひとつ)と、この地方出身の技師ギュスターヴ・エッフェルを記念した、19世紀当時のエッフェル塔モチーフのオブジェの数々(これがキッチュでなかなか面白い)くらいだろう。
  

同じ敷地内にある聖堂が、現在はMusée d'art sacréとなっている。身廊部分には透明アクリルの棚が設けられ、夥しい量の聖杯、それから様々な聖具が展示されている。足元にもアクリルで保護された四角い穴があり、かつての聖職者たちがミサの際に着た、豪華な僧衣が飾られている。クーポラ部分には元々設置されていた祭壇や彫刻に加えて、絵画や聖遺物などが置かれている。数多くあった聖具の中でも珍しくて目を引いたのが、さまざまな日常的な材料をデクパージュ、コラージュして作られた一種のボックスアート。説明パネルにはそれぞれ、Reliquaire de la Passion(受難の聖遺物箱)、 Boîte de Devotion(信仰の箱)とあった。ともに20世紀のもので、由来不詳。素人仕事のものに見受けられる。
  
  

他の写真はこちらに。
http://f.hatena.ne.jp/baby-alone/musee%20de%20la%20vie%20bourguig/