後ろ姿の肖像
来月初旬、アシスタントを勤めている日本語教室で、何か日本文化について発表することになっている。最後は「坊主めくり」で〆ることにして、和歌とそのシンボリズムについてでも発表しようかと考え、いろいろと調べているうちに行き当たったのが、「歌仙絵」というジャンル。
下に貼ったのは、小野小町を描いた歌仙絵。お土産物のデザインにも転用されていたり、かなりメジャーな一枚だと思うが、よくよく考えると「肖像画」なのに後ろ姿という発想は、なかなかすごいのではないだろうか。
(佐竹本三十六歌仙絵巻断簡・小野小町(部分)鎌倉時代・13世紀、個人蔵、画像は国立東京博物館のサイトから)
少なくとも西欧の「肖像画」(顔の表象)の伝統に照らし合わせたら、かなり斬新な構図だ。(もちろん、当時顔を公衆の前に晒す習慣のなかった階層の女性の肖像を、事後的に描くための苦心の策として「後ろ姿」となったのだろうが。)
下の図は、ディジョンのMusée Magninにある女性の後頭部を描いた作品。これはむしろ、女性の頭髪や装身具を描くための習作という意味合いが強いのかもしれないが、19世紀のアカデミズム風のポートレイトがびっしりと掛けられた壁面にひとつだけ存在する「後ろ姿」は、鑑賞者の目を引く。
お約束のようだけれど、「後ろ姿」のある肖像。
左)ドミニク・アングル《モワトシエ夫人の肖像》1856年、ロンドン・ナショナルギャラリー(画像出典)
右)ルネ・マグリット《不許複製》1937年(画像出典)