ローマのヴィッラ・ハドリアーナについて

このヴィッラはハドリアヌス帝が拡張した大ローマ帝国の各地を長期に訪れたときにみた建築の記憶をもとに組み立てたといわれている。いわば「うつし」がつくられた。建築の形式のみならず、ここに配されていた無数の彫像も、多くはギリシアの傑作をそのまま「うつし」たものである。それ故にローマはギリシアに比較してオリジナリティに乏しいと評するのはあたらない。彼らにとってギリシアの建築や彫刻はひとつの完成された型として受けとられていた。それを新しい空間の中の点景として配置するのは当然の手法であった。ローマではより壮大な空間や新しいメタフォアが生みだされるような組み合わせにより重点が置かれていたのである。
磯崎新『人体の影――アントロポモルフィズム』61ー62ページ)