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- 作者: 田中純
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2008/12/01
- メディア: 単行本
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・テラーニらのダンテウム計画:ダンテを称揚することで、イタリア《固有》の文化的伝統と、ファシスト・イタリアの政体を同時に建築化することを目指す。ダンテに関する博物館であると同時に、ダンテを奉る「神殿」でもあった。
→unbuiltのままに留まる。
・ダンテウム予定地の象徴性について
フォロ・ロマーノに面したマクセンティウス・バシリカと対面する位置に計画される。両者の間には、ムッソリーニが1932年に設定した都市ローマの軸線である、帝国通り(ヴィネツィア宮殿とコロッセウムを結ぶ)がある。→「ローマ帝国にまで遡る民族の記憶を表象し、ファシスト国家の文化的モニュメントとなることを予定された政治的象徴性を告げている(上掲書、428ページ)」。
・ダンテ『神曲』テクストの空間化の試み
ダンテウムでは、『神曲』そのものが厳密な構成をもつ作品であったがゆえに、幾何学的秩序あるいは数への徹底した還元によって、文学作品と建築との掃除を図ることが可能となった。しかしその一方で[…]空間の閉鎖性と開放性、広さと狭さ、光と闇といった単純な要素が、過剰に厳密な幾何学秩序の貫徹のもとで強い意味的負荷を与えられ、訪問者の空間経験に作用するのである。
(430ページ)
ダンテウムは黄金分割と螺旋の周遊路の構造を備え、そのプランは向かい合うバシリカと同じく、黄金比をなす長辺と短辺からなる矩形をとっている。そこでは内部の図書館とは切り離された三つの間それぞれが地獄・煉獄・天国に対応し、数的秩序を媒介として、建築的構成そのもののうちにダンテの『神曲』が翻訳されている。黄金比に基づく柱の間隔や開口部の寸法ばかりでなく、壁の厚さなども厳密な比例関係に従っている。ここでは訪問者が螺旋状に上昇する迷宮的な身体運動によって、この建築物の純粋な幾何学的構成のうちに、『神曲』に内在している秩序を認識することが目論まれていた。
(429ページ)
訪問者は『神曲』を読み進むように、地獄から天国へと三つの世界を通過してゆく。四方を囲む外壁がわずかにずらされた隙間から中庭に導かれた訪問者は、エントランス・コートの百柱の間(それは『神曲』が百の歌からなっていることに対応している)を経て、黄金比の矩形をなす地獄の間に入り込む。この矩形から正方形を分割し、残りの矩形からさらに正方形を分割してゆくという作業を繰り返すことにより、ここでは互いに黄金比の一辺を持つ七つの正方形が螺旋状に配列され、それぞれの中心に柱が立っている。そらに階段を上がると、同様の分割によって生じる正方形が今度は天井の開口部となった煉獄の間に入る。その隣の天国の間は、百柱の間の上部にあたり、透明なガラスでできた柱が光を充満させて立ち並んでいる。そして、この部屋に接して細長くのびる帝国の間の入り口に立つとき、来訪者は、天空に向かって開け放たれた袋小路の突き当たりに、鷲の巨大な紋章を目にすることになる。これは『神曲』天国篇において歌われている、Mという文字の鷲のイメージの変容に関係している。この鷲は、「」という文の最後の文字Mが変容した図像として現われる。そこで象徴されているのは、教皇の地上的権力に代わって大地に正義を実現すべき帝国のヴィジョンであるという。そして、テラーニたちにとってMという文字は同時に、ムッソリーニのイニシァルでもあった。
(429-430ページ)