バルザックによる観相学

「この者はカツラを脱がせなければならん」と、カミュゾはジャック・コランが意識を取り戻すのを待っていた。老徒刑囚はこの言葉を聞くと、恐れのあまり身ぶるいをした。そうなった場合、後は自分の人相が、どれほどぞっとする表情を帯びるかを知っていたからである。「もしあなたにカツラを脱ぐ力がないようなら……そうだ、コカール。脱がせてあげるのだ」と、判事は部下の書記に向かっていった。ジャック・コランは驚くべき諦めを見せて頭を書記の方へと差し出したが、カツラという装飾品を剥ぎとられると、彼の顔は見るも恐ろしいものとなった。その顔は彼の真の性格を表わしていた。この光景はカミュゾを大きな不安へと突き落とした。医師と看護人を待ちながら、彼はリュシアンの住居で押収した書類と物品の全部を分類し調べ始めた。サン=ジョルジュ通りのエステル嬢の家を探した上でマラケー河岸へと向かい、そこでも家宅捜索をしたのだった。[…]ジャック・コランは、彼の頭部のなまなましい形相のせいで生まれた一切の疑念を、その自然で淡々とした態度で早くも相殺してしまっていた。(上巻、525-529ページ。)

判事の合図で、拘置人は服を脱がされ、ズボンは残しておかれたが、シャツに至るまですべて剥ぎ取られた。そうするとギリシャ神話の片眼の巨人のように力にみちた毛むくじゃらの上半身が現われ、そこにいるみんなの目を奪った。それはナポリファルネーゼ宮にあるヘラクレスの像から、その巨大な誇張を取り除いたような、みごとなばかりの肉体だった。「このようにつくられた人間の本性は、一体どんなふうになるように運命づけられているのでしょうか?……」と、医者はカミュゾにいった。廷吏が大昔から彼らの職務のしるしとしている、鞭と呼ばれる一種の黒檀製の棒を持って戻って来た。廷吏はそれで、刑務所の刑吏の手で不吉な文字を入れられた場所を何度か打った。すると17の孔のような傷が現われたが、その傷はすべてバラバラに配列されていた。注意深く背中を調べてもどのような文字の形も見つからなかった。ただ廷吏は、Tという文字の横棒が、二つの孔で示されているのに注意を求めた。その二つの孔の間隔は、この横棒の長さになっていた。それはTという字の横棒の両端の二つの小さなコンマ状のものの間隔でもあった。廷吏はまた別の令状の傷がTという文字の終始点を示しているともいった。「しかしそれだけでは捉えどころがないね」と、カミュゾは、ラ・コンシエルジュリーの医者の顔に浮かんだ疑惑のようなものを見ながらいった。(上巻、530-532ページ)

しかしこの「占卜」は、共に最終的には奏功しない。ジャック・コランに罪の徴候は現われ出ないのである。