聴覚と触覚

それらの話や会話は、耳の聴覚で聞くよりは、何かの或る柔らかゐ触覚で、手触りに意味を探るといふやふな趣きだつた。とりわけ女の人の声には、どこか皮膚の表面を撫でるやうな、甘美でうつとりとした魅力があつた。すべての物象と人物とが、影のやうに往来してゐた。
萩原朔太郎猫町」)