「思春期」という文化現象

そして繃帯と言えば、華宵の描く少年や少女の中には、手足や指などに純白の繃帯を巻いたのがよくあった。母などに訊くと、大正から昭和のはじめにかけて若い男女の間に、傷もないのに指に繃帯を巻きつけるのが流行ったという。その当時の華宵人気を物語る、これは妖しい挿話であろう。
久世光彦『昭和幻燈館』晶文館、1987年、120-121ページ。)

降誕祭の贈り物に頂いた、西條八十の少女詩集(1932年刊)。モスグリーンのビロードの表紙に、薔薇の花束が金色で型押しされている。表紙裏には、「Tsuneko Yamashita」のサインが。昭和7年頃に女学生であったのだろうから、生きていれば90歳前後、私の祖母と同年代だろうか。彼女がこの詩集を手に取った頃には、ビロードの緑はもっと色濃く、薔薇の金色は輝いていたことだろう。
    
中央の写真は、「夜店」という詩と川上四郎による挿画。屋台の並ぶ後ろに、いわゆる「看板建築」が建っているのが分かる。
この時代の書籍は、巻末に収められている広告の煽り文も面白い。「少年模範文 八波則吉著、八十銭、八波先生は小學国語読本を作られた有名な先生!有益な文章のお話と模範作文が五百有余!世の中に出てから文章の大切なことは非常なものです。[…]これを読んだら、どんな文章でも自由に書けるやうになります。少年ばかりでなく、少女の皆さんにもぜひお奨めしたい本です。少女が読んでもためになります。」とか、「三つの花、吉屋信子、[…]この白百合、黄ばら、紅椿のやうな三人の姉妹が、涙ぐましいほどに励ましあつて立派に育つてゆく感激にみちた物語」とか。この時代が、「少年」や「少女」という存在に投影していたイメージが垣間見られる。
ところで「模範文例集」と言えば、この前リベラシオン広場の古本屋で、20世紀初頭のものと思しき書簡文例集(フランスのもの)を購入した。とあるお嬢さんを見初めた青年が、まずは彼女の両親に交際の是非を問い合わせたり、ニューヨーク(むしろ紐育と表記したい)への船旅の途中で死んだ父親の死因がコレラだったり、ともかく時代を感じる内容だ。役人へ宛てた書簡など、文末の結びは「あなたの忠実な僕より」である。時代や国毎に「模範文例集」を分析してみるのも、なかなか面白いかもしれない。