「性格(カラクテール)」概念と分類学


Jacques François Blondel, Cours d'architecture, 6 vols, 1771-77.
これはディジョンの市立図書館所蔵のもの。同じ著者によるDiscours sur la nécessité de l'étude de l'architectureArchitecture françoiseは日本の大学図書館にも所蔵があるようだけれど、この『建築講義』は、webcat検索では出てこない。フランスに来てよかったと思えた瞬間。

un édifice doit, au premier regard, s’annoncer pour ce qu’il est.
建築物は、一瞥してそれが何であるか予想できるようでなければならない。
(第1巻、390ページ)

Toutes les différentes espèces de productions qui dépendent de l’Architecture devant porter l’empreinte de la destination particulière de chaque édifice, tous doivent avoir un caractère qui détermine leur forme générale, & qui annonce le bâtiment pour ce qu’il est.
あらゆる種類の建築作品は、それぞれの建築物に固有の用途を表す表徴をもたなくてはならない。つまりすべての建築作品は、その総体的な形態を決定し、その用途を示す「性格」をもたなければならない。
(第2巻、229ページ)

こうした考えの源泉は、当時発展を遂げた博物学(自然誌)にある。即ち、博物学者リンネやビュフォンの系統学(反系統学)の序列に参与したブロンデルは、外観特徴という可視的要素に論拠を置き、これと社会的な目的性との合一を目指したのである。百科全書の建築の項を執筆したブロンデルにとって、「分類すること」は、ビアンセアンスという17世紀来のフランス古典主義の規範に沿ってひとつの明確な秩序付けを行う際に必要不可欠のものであったと言える。「自然科学で発展してきた諸観念を建築の理論に転用しようとした」百科全書派ブロンデルは、性格という可視的構造を、18世紀の、王を頂点とする階層秩序と、増大してゆく社会要素に対応する建築の社会的用途との交錯の中に重ね合わせようとした。[…]しかし、これらは共に、建物の性格が単に建物の外観を与えるだけではなく、外部と内部を関係付けなければならないことへと究極的には収斂される。ここに完成されるのは、建物の類型学である。性格は建物のタイプを直接表し出し、建物の外観、表情を明確にするのである。ブロンデルは、建物を見る者に呼び起こさせようとする様々な印象の性質(これは形容句で規定される)と建物の用途(これは社会的目的で規定される)との照応が、建物の性格を表すといった類型学を考えたと言える。
(白井秀和「フランス啓蒙主義建築思想における「性格」について」『日本建築学会論文報告集』第330号、1983年、163-170ページより、166ページ)

 
Biblothèque municipale(市立図書館)のsalle d'étude内観。18世紀の書籍や版画コレクションは、此所に収められている。