パリスの審判―美と欲望のアルケオロジー

パリスの審判―美と欲望のアルケオロジー

トロイア戦争の引き金となった「パリスの審判」というモティーフの、神話の語りやイメージにおけるversion(解釈/変奏)の複数性と、事後的に立ち現れる共通項について。言説の枠組には、冒頭で語られているように、精神分析の概念が陥入してきている。

第2部第3章で扱われている、工房制作や版画による複製流通における「名」や「手」の複数性の問題は、自分が修士論文で扱ったカナレットの問題とも通底しているように思う。
社会的事実の歴史的研究という立場から、これらの問題に接近していくことも十分に可能なのだが、そして優れた研究も数多く生まれているのだが、ダミッシュがここで展開している、まったく違った切り口からの分析は、自分が抱いていたイメージのversionを巡る問いに、通路を切り開いてくれているような気がする。