立原道造の廃墟論

建築が建築家の理念から製図に移された瞬間から、(或はこれを私たちが緩やかな表現で言はうとするなら、建築がすべての過程のあと出来上がつたものとなつた瞬間から)それはただたえまなくくづれ行くために作られたものとして、崩壊の第一歩を踏むことのあらはな事実を思ひ及んだのである。私たちは、廃墟が完璧以上の力で私たちを引きつけること、生母としての自然へ、人間労作のつくりあげた形のふたたび帰り行く、そこに廃墟のまさに崩れかける瞬間が美しさであると、説くジムメルの考察にも耳を傾けた。
立原道造「方法論」)