ベンヤミン・コレクション〈1〉近代の意味 (ちくま学芸文庫)

ベンヤミン・コレクション〈1〉近代の意味 (ちくま学芸文庫)

クローズ・アップによって空間が、スローモーションによって運動が引き伸ばされる。拡大撮影というのは、〈これまでも〉不正確になら見えていたものを、たんに明確にすることではなく、むしろ物質のまったく新しい構造組成を目に見えるようにすることである。同様にスローモーションは、たんに運動の既知の諸要素を目に見えるようにするだけでなく、この既知の要素のなかに、まったく未知の要素を発見する。[…]人間によって意識を織り込まれた空間の代わりに、無意識が織りこまれた空間が立ち現れるのである。[…]このような[私たちが無知の]箇所にカメラはもろもろの補助手段――カメラ角度の上げ下げ、中断と隔離、経過の引き伸ばし〔スローモーション〕と圧縮〔クイックモーション〕、拡大〔アップ〕と縮小〔ロング〕――を用いて切りこんでゆく。視覚における無意識的なものは、カメラによってはじめて私たちに知られる。それは衝動における無意識的なものが、精神分析によってはじめて私たちに知られるのと同様である。
ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」上掲書所収、619-620ページ。)