とうとう彼はフェルメールの絵の前に来た。[…]最後に、ほんの小さな黄色い壁の面という、このかけがえのない物質に気づいた。彼の目眩は激しくなっていった。[…]「こういうふうに書かなければならなかったのだ。[…]色の層を何度も塗り、この小さな黄色い壁の面のように、私のフレーズをそれだけで得難いものにするべきだったのだ」。しかし、彼の目眩の激しさは治まることがなかった。[…]彼は繰り返した、「庇のある小さな黄色い壁の面、小さな黄色い壁の面」。しかし、彼は円いソファにくずおれた。[…]彼は死んでいた。
マルセル・プルースト失われた時を求めて8――第五篇 囚われの女』井上究一郎訳、ちくま文庫、1993年、355ページ。)

←物質としての、質料(ヒュレー)としての色彩(絵の具)の面。