国宝 土偶展東京国立博物館
大英博物館で開催されたエキシビションの帰国展示。一つの展示室内に70点弱の展示品という、比較的こじんまりとしたものだが、土偶の地域・年代毎のヴァリエーションや、土偶と近縁関係にあると思われる造形表現をも辿ることができ、良くまとまった面白い展示だった。
仮面を付けた人物(儀式中のシャーマン?)を象ったと思しき土偶が存在するのだが、実際縄文時代には、仮面の文化も存在していたという。当時の仮面も何点か展示されていた。「鼻曲がり」と呼ばれる仮面(亀ヶ岡文化を形成した東北地方でのみ出土、こちらのサイトの中段に画像がある)は、ピカソ作品のモデルという説(ウィリアム・ルービン)もあるザイールの仮面(ペンデ族の「病気の仮面」)と酷似している。アフリカの仮面は、梅毒により変形した顔を象ったものだそうだが、「鼻曲がり」の場合は一種の宗教的トランス状態を表現しているのではないか、とも思う。いずれにしても、顔がその規範であるはずの左右対称性――ロールシャッハテストの特徴であるシンメトリーは、ある種の精神病者には「顔」の現前を喚起させるという――を失った形で表現されていることに、興味をそそられた。
今回の展示の解説パネルでは「土偶は精霊を象ったという説もある」という表現に留まっているのに、イギリスでの展示写真を見ると、断定的に「Spirits」と表記されていたのが気になった。リアリスティックな身体表象を逸脱した表現は、西洋人にとっては「人外の想像的な存在」として理解されてしまうのだろうか。